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【マリンネット探訪第20回】
新スタジアムを「母港」に、J2昇格を目指す
< 第526回>2023年02月08日掲載 

FC今治/株式会社今治.夢スポーツ
代表取締役社長 矢野将文氏

 












――FC今治/株式会社今治.夢スポーツについてお聞かせください。

 FC今治は、愛媛県今治市をホームタウンとして、明治安田生命J3リーグに所属するサッカークラブで、その運営会社が株式会社今治.夢スポーツです。2014年のブラジルW杯で日本が惨敗した際、現会長の岡田武史(以下、岡田)がスペイン人コーチから「日本にはサッカーの型があるのか?」と問われ、柔道や茶道や華道など、日本で道という字がつくものには型がある、守破離という考え方があるのに、サッカーにはないと気づかされました。そこで、「日本のサッカーの型を作ろう」と考えて、たまたま思い出したのが、彼の大学の先輩がオーナーを務めていた当クラブでした。

 当時、Jリーグの複数のクラブから社長やGMや監督のオファーがあったそうですが、もしそのオファーを受けると、まず既にできあがっているものを壊すところから始めないといけないので、それならば、ほぼ0に近いところからスタートしようと、岡田は当クラブを選びました。

 当時はまだ四国リーグ、J5相当でした。日本を代表する海事都市という理解はあったようですが、裾野が広い海事産業の企業様がたくさんいらっしゃるから今治を選んだというわけではないんです。ただ、今治の歴史や文化を調査したコンテクストデザイナーが、「村上水軍の末裔が世界の大海原にうって出る」というコンセプトを作ってくれて、カラーやエンブレムができあがりました。結果的に、現在地元の企業様はもちろんのこと、地元にとどまらず、日本を代表するようなたくさんの会社さまにご支援いただいており、その核になっているのが海事産業なのは間違いないです。

 一緒に盛り上げて行こうとおっしゃっていただける企業様との関係を、スポンサーシップではなく、パートナーシップと呼んでおります。一方的に協賛していただくだけということではなく、共に同じ方向に向かって進んでいきましょう、サッカーやスポーツを通じて地域貢献を深めましょう、イベントや試合観戦で従業員満足度を高めましょう、応援するもの同士というご縁がマッチングにつながり本業でのシナジーも生まれます、と申し上げております。現在、330社のパートナー中、海運は26社、造船は8社、舶用機器は8社であり、その他の関連する企業も加えると、実に大きなウェイトを占めています。

 今治は甲子園にもよく出場している野球の街でもありますので、最初は、「四国リーグからJ1へ10年以内に行って優勝争いをするぞ」と言っても、皆ポカンとされていましたが、少しずつご縁を広げていただきました。サッカーを通じた賑わいづくりはもちろんのこと、サッカー以外の活動も愚直に続けました。Bari Challenge Universityという若者向けのワークショップイベントを続けてたり、地元の公園の指定管理を引き受けて環境教育プログラムを展開したり、、しまなみ野外学校というお子様向けの冒険プログラムや今治の自然を生かした企業向け研修など、スポーツ、教育、健康の領域で、皆さんに喜んでいただける取り組みを進めました。そうすると、徐々に皆さんにお認めいただいたような気がします。

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 今治港と今治駅を結ぶ中心街に、ドンドビという交差点があります。その一角はいま芝生の空き地なのですが、昔は大丸デパートがあり賑わっていたようです。2018年にビジョンが設置され、普段は交差点のほうを向いているのですが、アウェイの試合があるときには、ビジョンを反転させていただいて、パブリックビューイングを実施します。どこからとも知れず、ユニフォームを着て、タオルを持ったファンの皆さんが集まってきて、スクリーンに向かって応援します。多いときには800名が集まったこともあり、昔の賑わいを知る方にとっては感慨深い光景のようでして、たいへん喜んでいただいています。FCはしっかり頑張っているという評判が立つと、中には、当社のパートナーリストをチェックして、名前が載っていない海運会社の紹介をしていただく方もいらっしゃいます。ありがたい限りです。

――スポーツのビジネスの難しさ・面白さについて

 スポーツはやはり勝たなければなりません。今治の人はせっかちな方が多く、「今年昇格できなかったらみんな離れていくよ。」と毎年発破をかけられます。負けてもよく頑張ったと言われることもあり、スポーツに期待されるのは感動や勇気ではありますが、勝ってはじめて本当の意味で笑顔になり希望を持てます。経営で勝敗を左右することはできませんが、ご期待にお応えしないといけません。四国リーグ(J5相当)からJFL(J4相当)には2年かかり、JFLからJ3は3年かかりました。今年はJ3リーグ4年めです。なんとしても昇格しなければなりません。

――岡田武史会長について

 会長岡田はマグロみたいにずっと動いていないと気が済まない人に見えます。また、目標を一旦設定すると、それを達成するために一か月後に、一週間後にどうなっていないといけないか、そして、今日何をするのかと、具体的に組み立てて動きます。さらに、朝礼暮改どころか朝礼朝改です。スタッフが一次情報を獲得してきたり、新しい考え方に自分が出会うと、今までの流れにまったくこだわることなく、すぐ改めます。スピード感がすごい。とにかくやってみようと。変化し続け、発信し続けてきたことで、共感が広がっている。5年前に求人を出したら、一つのポジションに940名が応募していただいた。スタッフ同士の約束事を作っているが、岡田が追加した項目、「自分の力では変えられないものを謙虚に受け入れ、自分の力で変えられることを変える勇気を持ちます」は、こだわりをもたないという彼の真骨頂だと思います。

――海事産業とのかかわりについて

 多くの海事産業の皆さまにパートナーとして支えていただいているだけでなく、そもそもクラブコンセプトとして、「村上水軍の末裔が世界という大海原にうってでる」としました。なので、当社のエンブレムは、群青と白と黄色ですが、群青は大海原、白は航跡の波しぶき、黄色は先を照らす光を意図しています。新しいスタジアムの座席は、波が立っている海の画像をデータ化して、群青と青と白の三色を配置しました。屋上フロアには、皆さんになじみのあるコンテナを改装して諸室として利用します。また、ボランティアスタッフの名前もボヤージュ(Voyage)ですし、ファンクラブの名前もFC今治セイラーズクラブです。

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――新スタジアムについて

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 フットボールクラブ運営会社がJ1J2対応スタジアムを所有する例は柏レイソルさんとジュビロ磐田さんだけです。柏さんは日立グループで、磐田さんはヤマハグループという親会社がいます。親会社がいないクラブが所有するのははじめてなので、多くの皆さまから注目して頂いております。
 この「今治里山スタジアム」は、「次世代のため、物の豊かさより心の豊かさを大切にする社会づくりに貢献する」という企業理念を体現する場所です。365日の賑わいをつくり、木々も人々の関わり合いも成長するスタジアムです。ファン、サポーター、パートナーなど、当クラブに関わるすべての関係者を、FC今治ファミリーと呼んでいます。当社は、新スタジアムを核として、FC今治ファミリーをベースとしたコミュニティーづくりを進めて参ります。

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 これまで進めてきたスポーツ、健康、教育の領域に加えて、食、農業、交通、芸術などにも事業活動を広げます。例えば、食という意味ではカフェをオープンします。また、ドッグランもはじめます。さらに、どなたにでも簡単にお越しいただけるよう、地元のタクシー会社やバス会社と相談しながら、定額の乗合タクシーの実験事業エリア内に里山スタジアムも含んでいただくよう、お願いしております。また、地元の社会福祉法人がスタジアム内に通所施設を作られます。通常、閉鎖的になりがちな施設を、スタジアムエリアというオープンな場においてみるという新しい挑戦です。

――年初にあたり、2023年の抱負をお願いします。

 クラブの本業は、サッカーです。新スタジアム元年に、なんとしてもリーグ昇格を果たします。そして、365日のにぎわいづくりです。共感していただいて資金を拠出いただいた皆さまのご期待に応えるためにも、里山スタジアムでさまざまな事業を展開して、試合がある日はもちろんのこと、試合がない日にもスタジアムに足をお運びいただけるよう進めてまいります。今治へのご出張の際には、ぜひご来場ください。日程がお選びいただける場合には、当クラブのホーム試合日程もご確認ください。皆さまとともに、クラブを、里山スタジアムを育てていきたく存じます。
 
【プロフィール】
矢野 将文(Masafumi Yano)氏
株式会社今治
夢スポーツ 代表取締役社長 愛媛県出身。
中学から大学までサッカー部。
2000年 東京大学工学系研究科修了、ゴールドマン・サックス証券入社。
債券営業部に所属し、金融法人の有価証券運用を支援する業務に従事。 地元に戻り、愛媛大学農学研究科で林業を専攻。
2014年11月 岡田武史氏とのご縁があり、今治.夢スポーツに入社。
2017年4月 経営企画室長等を経て現職。
2020年9月 より、学校法人今治明徳学園理事。

■FC今治/株式会社今治.夢スポーツ(https://www.fcimabari.com/

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