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【マリンネット探訪第21回】
伝統と技術に裏打ちされた高い開発力
日の丸エンジン「UEブランド」の力で次代を拓く
< 第527回>2023年03月14日掲載 
株式会社ジャパンエンジンコーポレーション
代表取締役社長 川島 健 氏

 










――――舶用低速エンジン唯一の国産ブランドであるUEエンジンの開発から設計・製造・販売・アフターサービスまで一貫体制で対応している、株式会社ジャパンエンジンコーポレーションの川島 健社長です。ジャパンエンジンコーポレーションの概要・特色についてご紹介をお願いいたします。

 当社は、2017年4月1日に、神戸発動機株式会社と三菱重工舶用機械エンジン株式会社(現三菱重工マリンマシナリ株式会社)のエンジン部門が事業統合して発足した、舶用低速2ストロークUEエンジンのグローバルライセンサーです。
 神戸発動機が長い歴史の中で培った高い製造技術と、最新鋭エンジンを世に送り出してきた三菱重工の開発力、ソリューション力が当社へ受け継がれています。三菱重工総合研究所からの高度技術支援も継続しており、高い信頼性と経済性、環境性能を追求した付加価値の高いエンジンを提供することで、日の丸「UEエンジン」の伸長と発展、更には企業価値の向上を図っています。当社が発足して以来、新社屋や最新鋭自動倉庫などの各種インフラ整備も進めており、発足当初は、三菱重工の神戸地区に分散配置していた開発機能とアフターサービスの一部機能を、2020年4月に明石本社工場に集約し、拠点統合を行いました。これらの統合作業も、その後の経営に大きく資することとなりました。また2022年4月には、UEトレーニングセンターを開設し、本船乗組員や管理会社、認定補修会社、国内外ライセンシーなど、UEエンジンに携わるエンジニアに、技術と技能の向上のため、座学・実技による講習を行うなど、様々なサポートを提供しています。


タイトル また、当社は、MANエナジーソリューションズ、ウインターツール・ガス・アンド・ディーゼル(WinGD)と並ぶ、世界3大ライセンサーのひとつであり、世界で唯一「開発から、設計、製造、販売、アフターサービスまでの一貫体制」を備えていることが特徴です。UEライセンサーとして、エンジン開発のエキスパート集団を含めた多様な組織と人的リソースを有し、海外ブランドに対抗できる唯一の純国産低速2ストローク「UEエンジン」を開発しています。自社開発且つ純国産であることから、そのコア技術は海外に流出することなく、製品にブラックボックスもないことが、大きな特徴のひとつです。更に、国内外エンジンメーカへライセンス供与することで、製品普及の更なる拡大も可能となっています。

――――純国産低速2ストローク日の丸「UEエンジン」の歴史について改めてご紹介いただけますか。

 UEエンジンの歴史は、今からおよそ70年前まで遡ります。日本が高度経済成長に差し掛かり、造船・海運立国を標榜するなか、大型船舶の主機関を海外ブランドのみに頼らざるをえなかった状況を変革すべく1955年に初号機を開発、完成させました。その後、長きに亘り、多くの船会社様、造船所様、ビジネスパートナー様のご愛顧とご支援、並びに赤阪鐵工所様を始めとする各ライセンシー様とのパートナシップに支えられ、船舶の安全・安定運航に貢献しつつ、ここまでの歴史と生産実績を積み上げてきました。その結果、2022年12月には累計生産4,000万馬力(累計生産台数4,586台)を達成しました。

――――中期経営計画の戦略の1つに「ライセンス事業の伸長」を挙げています。ライセンス事業の今後の展開についてお聞かせください。

 当社は、現在、日本国内に1社、海外に5社のライセンシーを持っており、海外5社の内3社が中国ライセンシーです。造船業の成長・発展が著しい中国を重点マーケットと位置付け、2006年に中国船舶重工集団柴油機有限公司(CSE)、2009年に浙江洋普柴油機有限公司(YDE)とライセンス契約を締結して以来、当社が得意としている中小型機関が適する、中国沿岸部や揚子江などの河川を航行する中国内航船をターゲットに、ニッチ戦略を展開してきました。船主や設計院へUEエンジン採用の働き掛けなど、これまでの地道な活動が奏功し、複数の中国内航船標準船型にスペックインすることにも成功しました。さらに近年、中国内航船は大型化と経済性追求の志向が高まっており、従来採用されていた4ストローク機関から2ストローク機関への置き換えの動きも見られることから、2021年には、中国No.1の4ストローク機関メーカーである広州柴油機工廠股份有限公司(GDF)とライセンス契約を締結しました。
タイトル GDFはUEエンジンのシングルライセンシーで、新たに2ストローク機関を品揃えすることで事業拡大を目指し、積極的に受注活動を展開しています。この結果、GDFが牽引役となって、中国マーケットでUEエンジンの受注が急拡大しており、過去10年以上掛けて積み上げてきた中国ライセンシー製のエンジン台数(40台)を上回る規模の受注を僅か1年で果たし、更に受注を順調に拡大している状況です。






――――中国におけるライセンスビジネスが大きく成長しているのですね。

 急拡大するライセンスビジネスへの対応力を高めるべく、2022年1月には、ライセンス業務に特化した新部門を設置し、中国人スタッフも増強してライセンシーのサポートを強化しています。特に中国ライセンシーの受注エンジンは、機械式機関に加え、電子制御機関、Tier3適用機関が増加傾向であることから、製造支援のために、当社からTechnical Advisorを派遣しています。
 今後の展開としては、ボリュームゾーンであるボア30~50cmの中小型エンジンを中心に、ライセンシー各社との連携を更に強化してシェア拡大を図り、2023年度には、「UEファミリー」全体で年間100台体制の実現を目指します。なお、中国マーケットにおいてUEエンジンの受注を継続・定着させるためには、UEエンジンの部品供給体制の強化と、アフターサービスネットワークの強化が喫緊の課題と考えています。
 部品供給体制に関しては、中国でのローカライゼーションを促進し、現地調達比率を引き上げることや、日本から供給するキーコンポーネントの増産体制を確立するなど、サプライチェーン強化も推進していきたいと考えています。また、日本と中国を合わせた生産量の拡大によって、量産効果によるコストダウンも実現可能であると考えています。


タイトル アフターサービスネットワーク強化については、先ず、当社主導で中国ライセンシー製造主機搭載船のアフターサービスサポートを実施し、UEエンジンのレピュテーションを高める活動を展開します。また、現在は中国国内に2ヶ所(連雲港、鎮江)の部品デポ拠点を保有していますが、今後はライセンシーと連携し、サービス拠点の更なる拡充を図る予定です。将来的には中国内航船主が、東南アジア圏を往来する外航船に進出することも予想されるため、これをカバーできるよう、アフターサービスネットワーク強化も並行して図っていきたいと考えています。

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――――次世代燃料のエンジンについて、アンモニアと水素の2種類を先行して開発されています。現在の開発状況と今後の展開についてお聞かせください。

 当社では、2050年カーボンニュートラルの実現に向け、グリーンイノベーション基金事業によるご支援も頂きながら、次世代エンジンの有力候補である、アンモニア燃料エンジンと水素燃料エンジンの開発に取り組んでいます。
 アンモニア燃料エンジンの課題である、アンモニアの難燃性と亜酸化窒素(N2O)発生のリスクに対しては、当社独自の層状噴射技術の適用により最適化を図っていきます。また臭気・毒性に対しては、リスクアセスメントを通して、確実な漏洩対策や除害システムの適用、適切なオペレーションシーケンスなどを確立することで対応していきます。開発スケジュールは、三菱重工業総合研究所(長崎)にある単筒試験エンジンによるアンモニア燃料試験運転を2023年春にスタートすべく、足元では同試験エンジンの改造やアンモニア供給設備の設置工事を進めています。本船用のフルスケール実証エンジン(50LSJA)は、2025年度に完成予定で、日本郵船様が日本シップヤード様で建造するアンモニア運搬船に搭載され、2026年度に就航、実証運航を行う予定です。

タイトル 水素については、アンモニアと対照的に非常に着火し易く、燃焼速度も非常に早いため、安定した燃焼制御が肝となります。当社は、安定した燃焼とエンジンの高出力化実現ために、水素をシリンダ内に直接高圧噴射する方式を採用しています。開発スケジュールとしては、水素噴射系の単体試験を2023年度に実施し、本船用のフルスケール実証エンジン(35LSGH)は、2026年度に完成予定です。実証運航は、商船三井様/商船三井ドライバルク様が尾道造船様で建造する近海船で行います。
 なお、グリーンイノベーション基金事業のコンソーシアム企業である、川崎重工業様とヤンマーパワーテクノロジー様が開発した水素燃料エンジン(4ストロークエンジン)も当社工場で試運転を行うことから、当社エンジンを含めた3種類のエンジンの試運転を実施可能な工場運転設備の設置工事にも着手している状況です。なお、水素燃料タンクと水素供給設備は、工場試運転用並びに実証運航用(本船用)ともに、川崎重工業様から供給いただきます。


――――アンモニアや水素燃料の実用化の他に、ブリッジソリューションへの取り組みについてもお聞かせください。

 将来的なカーボンニュートラルへ向けてのトランジション、いわゆるブリッジソリューションとしては、既に実用化・就航済みの層状水噴射によるMGO専焼エンジン(アンモニアレディー仕様)を提案しています。LNG燃料エンジンの適用が難しいとされる中小型船舶において、従来の重油燃料エンジンに対してGHG排出量を約10%程度削減可能な層状水噴射MGO専焼エンジンをブリッジソリューションとして適用し、将来的にアンモニア燃料船に転換するというものです。液体燃料船から液体燃料船への転換なので、エンジン本体を含めて比較的小規模な改造で燃料転換出来る点が特徴です。

――――様々な代替燃料を想定し開発を進められているのですね。

 当社UEエンジンのカーボンニュートラル戦略は、水素燃料エンジンとアンモニア燃料エンジンを核とした、幅広い代替燃料に対応可能なエンジンポートフォリオを展開することです。現時点で当社は、ガス燃料エンジンなど製品化はしていませんが、水素燃料エンジンが完成することで、LNGや合成メタン燃料にも同技術の転用ができ、またアンモニア燃料エンジン技術は、メタノールやLPGにも転用が可能です。これら新燃料エンジン開発は、今後の当社のESG経営の中核をなす取り組みであり、様々な次世代環境技術を用いた製品を供給し続けることで、海運・造船業界の脱炭素化に貢献していきたいと考えています。

――――これまでのご経歴についてご紹介をお願いします。

 1993年に甲南大学経営学部を卒業後に三菱重工業株式会社に入社、同社の神戸造船所の資材部材料購買課に配属されました。そこでは主に船舶及びディーゼルエンジン向け主要コンポーネント(鋳鍛鋼品等)の購買業務に携わり、多くのビジネスパートナーとの信頼関係を構築することができました。入社以来、現在もお付き合いしているビジネスパートナーも多いです。その後1996年からは神戸造船所の原動機営業部ディーゼル営業課へ異動となって以降、大型船舶用ディーゼルエンジンの営業を行っていました。2007年のディーゼル事業ユニット営業課長就任を経て、2010年に同社ライセンス管理・計画課長に就任後は、中国ライセンシーの開拓と発掘に邁進していました。
 2013年の三菱重工舶用機械エンジン株式会社設立時は、同社舶用エンジン事業部営業・SCM推進部次長、その後、事業統括本部 舶用エンジン事業部 事業部長(2015年)を歴任し、日本唯一の大型低速ディーゼルエンジンのブランドであるUEエンジンの新機種開発、海外ライセンシー拡大、新造主機及びアフターサービス事業の拡大などを強力に推進してきました。
 2017年4月には、ジャパンエンジンコーポレーションの発足と同時に同社常務取締役となり、2018年6月に代表取締役社長に就任しました。管理系の部門なども経験しましたが、これまで一貫してディーゼルエンジンの仕事に携わっており、日の丸エンジン「UEブランド」の伸長と発展、企業価値の向上に取り組んでいます。


――――造船所を選んだ理由は。

 学生時代に長崎へ旅行に行った際、三菱重工長崎造船所で見た風景が強く印象に残っており、そこから船への憧れが強くなりました。三菱重工が第一希望でしたので、希望の進路に進むことができ、また入社後も大好きな船に携わることができて幸せです。とにかく船とエンジンが大好きな社長です(笑)。

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――――人生の転機についてお聞かせください。

 何といっても、三菱重工グループからスピンアウトし、当社ジャパンエンジンコーポレーションが発足したことです。当時はとにかく、エンジンの継続的な新規開発を含め、何としても事業を維持・発展させなくてはならないという重責と使命感にあふれていました。旧神戸発動機と三菱重工の社員のほとんどが、この新会社の発展を信じて快く異動を受け入れ、付いてきてくれましたが、これには大変感激しました。しかし同時に、これを決して裏切ってはいけないという決意も新たにしました。当時の船出はかなり厳しい状況でしたが、国内造船各社や船主の方々の支援にも支えられながら、ジャパンエンジンコーポレーション発足以来、前進あるのみで頑張ってきました。これからも更に果敢に挑戦しつづけたいと思っています。

――――「座右の銘」についてご紹介をお願いいたします。

 座右の銘は『進取果敢』(しんしゅかかん)です。人生の転機でも触れましたが、何事も前進あるのみ。既成概念にとらわれず、自身の意思で何事にも積極的に取り組み、果敢な決断力をもって、変化や失敗を恐れず前進していくことをモットーとしています。

タイトル――最近感動したできごと、または夢や目標について教えてください。

 感動とは少し趣が異なりますが、ライセンス事業のところでお話しました通り、中国におけるUEライセンス事業が、ここにきて大きく花開いたことは、非常に感慨深いものがあります。過去10年以上に亘り、中国市場でUEライセンス事業の開拓を地道に進める中、思うような成果に恵まれない時期もありましたが、苦労してやってきた甲斐があったと、最近しみじみと感じているところです。また、この10年以上の道のりを通して、ビジネスパートナーの枠を超えて苦楽を共にした(楽の記憶はほとんどありませんが・・)、貴重な中国の知己に巡り合えたことも、私の財産であり誇りとするところです。


タイトル―――思い出に残っている「一皿」についてお聞かせください。

 京都祇園の逸品『かね正(かねしょう)』の「きんし丼」です。ホクホクの鰻に、濃厚なタレと、ほんのり甘い錦糸玉子がハーモニーを奏でる絶品です。幼いころに、よく祖母に連れられて食していたもので、優しかった祖母の面影が偲ばれる思い出の一品です。今でも、菩提寺である南禅寺に参拝する折々に、家族でお店を訪れるのを楽しみにしています。ただ最近では、ガツンとストレートな定番の「うな重」にハマっています(笑)。
 


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 もう一皿は、大阪の天神橋筋六丁目『中華食堂 十八番』の「牛肉とニラと卵の炒め定食」です。大学時代に夢中だったスキーの合宿費用を稼ぐため、近所の大手スポーツウェアブランドの配送センターでアルバイトをしていたのですが、その時毎日のように通って食べていた、懐かしい一品です。この店は、とにかく何でも安くて、美味しくて、ボリューム満点、且つ早朝4:00~深夜25:00まで開いているお店です。未だに現金払いのみですが、庶民の味方として、食べ盛りの学生にとっても大変有難い存在です。実は、このインタビューのお話をいただいたことをきっかけに、久しぶりに立ち寄ってみましたが、メニューはほぼ学生時代のままで、味とボリューム、安さも健在でした!こみ上げる懐かしさで、学生時代に戻った気分で食べ始めたのは良かったのですが、前日のワクチン接種の影響もあり、私の食欲に当時の勢いはなく・・・結構苦戦しながらの完食でした(苦笑)。創業1973年で、私とほぼ同い年であることも、何かの縁を感じます。若さのバロメータとして、未だ旺盛な食欲を証明するためにも、次回は万全の体調で訪れてみたいと思います。

―――心に残る「絶景」について教えてください。

 中国三峡ダムの壮観な風景は忘れられません。三峡ダムは、1993年着工し、2009年に完成しましたが、資材部(購買)に所属していた1995年に訪れ、その後も何度かビジネスパートナー(ライセンシー)を訪問する際に立ち寄りました。行く度に姿が変わる様子を見ては、目もくらむような威容に圧倒されていました。ある意味、底知れぬ中国マーケットを想起させるものがあり、妙にファイトが湧いてきたのを憶えています。現在は、この三峡を上り下りする船舶にUEエンジンが採用されており、感慨深いものがあります。

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【プロフィール】
川島 健(かわしま けん)
1970年生まれ 大阪府出身
1993年 甲南大学経営学部卒業、三菱重工業株式会社入社
2007年 舶用ディーゼル事業ユニット営業課長就任
2013年 三菱重工舶用機械エンジン株式会社 舶用エンジン事業部営業・SCM推進部次長就任
2015年 神戸発動機株式会社 社外取締役就任
2015年 事業統括本部 舶用エンジン事業部 事業部長就任
2017年 ジャパンエンジンコーポレーション 常務取締役就任
2018年6月より現職

■株式会社ジャパンエンジンコーポレーション(https://www.j-eng.co.jp/index.html

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