dbg
【マリンネット探訪第26回】
社員一人ひとりが自立自走するチームをつくる
顧客と共に作り、共に広がる「計測エンジニアリング会社」
< 第533回>2023年07月27日掲載 


セムコ株式会社
代表取締役社長
宗田 謙一朗 氏
 








――――液面計や流量計の製造・販売を手掛け、船舶分野で国内トップシェアを誇る、タンクモニタリングシステムのスペシャリスト、セムコ株式会社の宗田 謙一朗社長です。セムコの概要・特色について、ご紹介をお願いいたします。

 当社は船舶向け燃料油等のタンク液面計測機器メーカーで、主力製品は、船舶の機関室向けのフロート式液面計です。1985年に、先代の父(宗田 啓市氏)が創業しました。父は元々スウェーデンの貿易商社・ガデリウスでセールスエンジニアとして勤務し、プラントや造船関連製品の輸入に携わっていましたが、その後2人の仲間と共に独立して流量計の製品開発に尽力しました。創業当初は、陸上のプラント向けの製品開発を行っていましたが、仲間の1人が四国出身で、造船所とのご縁があったことから、舶用向け液面計の開発を手掛けるようになりました。当時は、SOLAS条約(海上における人命の安全のための国際条約)において「固定式イナート・ガス装置を設けるタンカーには、密閉式の液面計測装置を設けること」が決まり、ルール変更に合わせて製品開発が必要だったことから、父が設計と試作をし、僅か1~2週間で造船所に納品したと聞いています。
 その後、その液面計を熱心な飛び込み営業で日本郵船様に売り込み、当時のご担当者の方のご支援もあって、結果的に船級(一般財団法人 日本海事協会)の型式承認取得、そして三菱重工業 長崎造船所建造の同社向けの船舶への採用が実現しました。父を始めとした創業メンバーや関係者の方の高い機動力と勘の鋭さが揃って実現したのだと思います。


――――開発や交渉がとてつもないスピードで進んだのですね。

 当社は社員45名の中小メーカーですが、社内では全員営業体制で、社員一人ひとりが自走できるチーム作りを意識しています。松下幸之助さんの「事業は人なり」という言葉のとおり、企業を発展させるのは技術でも製品でもなく「人」であると考えていますので、社員を大切にし、そして私自身が学んだコーチングを社内に取り入れながら、社員と向き合い、夫々の成長や可能性を引き出すことを大切にしています。

――――日本郵船とMTIとの共同事業で、タンクサウンディング装置「Honesty」を開発し、販売台数も国内中心に大きく拡大されています。同装置をはじめ、主力製品やサービスの強みについてお聞かせいただけますでしょうか。

 セムコ(SEMCO)の社名の由来は「Saving Energy and Manpower Corporation」です。これは当社製品やサービス全ての原点であり、当社の製品を使うことで、顧客の省力化や効率化、そして何より安心安全な環境を提供することを大切に、モノづくりをしたいと考えています。タンクサウンディング装置「Honesty」も、船員の安全を第一に考え、日本郵船様と開発した製品です。従来のサウンディング用メジャーの先端に接液センサーを搭載しており、泡(カプチーノバンカー)には反応しないことから、正確な計測を行うことができ、計測時間の短縮にもつながります。設置工事は不要で、小型・軽量で持ち運びもでき、機械式であることから、メンテナンスも容易です。また、無色透明の液体でも計測できるので、バラスト水など用途は幅広いです。現在も、チョークを使用した計測が行われているようですが、船員の安全確保や作業負担軽減を考えた時、「Honesty」はその課題解決にお役に立てるのではと考えています。
 
――――ビジョンに「ないものをつくる。共に広がる。」を掲げています。脱炭素化やDX化の動きが加速する中、製品開発やサービスにおける今後の展開や新たな取り組みについてお聞かせいただけますでしょうか。

タイトル 当社経営理念である「ないものをつくる。共に広がる。」は、今年決まったものです。創業当時から、誰も作っていないものを作ってきましたので、今でもこの考えを引き継いでいます。最近では、IoTを活用し、陸上の工場タンクや灯油の配送用タンク向けに、遠隔で液面監視ができるシステム「遠隔タンク監視アプリ」の引き合いを多くいただいています。液面センサーと通信ユニットを組み合わせたシステムを提供することで、トラックドライバーの人手不足や、2024年問題に貢献できると考えています。センサーの搭載によって貨物量を正確に把握し、タンクローリーが無駄なく輸送に従事することができます。また、液体の量だけでなく、温度・水質監視やフィルターなどの消耗品の交換時期も把握したいなどのニーズがありますので、新しい市場開拓に向けて動き始めています。陸上以外に船舶向けにも同技術を応用できると考えていますので、他社との協業含めて様々な可能性に挑戦していきたいと考えています。当社はセンサーだけでなく、ソフトウエアにも知見がありますので、液面計だけに拘らず、「計測エンジニアリング会社」として、社会に貢献していきたいです。

――――これまでのご経歴についてご紹介をお願いします。

 出身は兵庫県神戸市で、高校生まで地元の押部谷で過ごしました。大学は、長野県の信州大学教育学部に進学し、中学校の社会科学科を専攻していました。しかし大学3年生の頃、当時病を患っていた父から家業を継ぐ話があり、不安はありましたが、新しい学びに繋がると前向きに受け止め、家に戻る決意をしました。大学卒業後、直ぐに帰ってきてほしいという親の希望はありましたが、当時どうしても海外に留学をしたかったので、入社後に1か月間だけオーストラリアに留学をしました。
 入社から3年ほど経過した26歳の時、当時は良い商品を作ることよりも、コストに重きを置く業界内の大きな流れがあり、その環境に身を置く中で次第にモチベーションが低下していきました。このまま続けて良いものか思い悩んでいたちょうどその時、Nor-Shippingに行く機会に恵まれ、現地で欧州の洗練された商品や独創的な発想を目の当たりにしました。欧州勢の商品開発に対する姿勢も肌で感じることができ、製品の良さだけでなく、作り手が一体となってモノづくりに貢献していることを知りました。それまで抱えていた悩みも吹き飛び、自分の会社もそのようになりたい!と強く決意した経験でした。
 その後2005年に社長に就任しましたが、当時は会社経営の右も左もわからず、大変苦労しました。私自身のプライドが高く、自分の考えを社員に押し付けることも多かったので、社員との間に隔たりができ、社内を纏めるどころか孤立してしまいました。しかし、このままではいけないという危機感から、社内メンバーと何度も話し合いをしたり、稲盛和夫さんが主催する経営塾「盛和塾」や、松下幸之助さんの指示の下に開講されている公開型の経営セミナー「PHPビジネスコーチ養成講座」などに参加して、必死で会社経営を学びました。そしてそれらのトレーニングを通じて、自分自身と向き合うようになりました。内省することで自分の弱さも受け入れるようになり、次第に社内の状況も変わっていきました。残念ながら数名の社員を失う結果となってしまいましたが、そのような状況下でも会社に残り、私についてきてくれた社員には、本当に感謝をしています。
 また、私の人生にとって欠かせないのがコーチングとの出会いです。コーチングはコミュニケーションツールとして組織開発にも活かせると思い、約3年間学び、社内にも導入しました。効果は次第に業績にも表れ、社員一人ひとりが主体性を持って行動するようになりました。私自身と社員との信頼関係も徐々に強化され、経営陣からの指示が無くても社員自らが知恵を出し、チーム内で意思統一を図りながら業務に取り組む姿が見られるようになっています。


タイトル

 
タイトル――――休日はどのように過ごしていますか?

 学生時代はもっぱら野球少年でしたが、最近では、サーフィンを楽しんでいます。先日も知人に誘われて、高知まで行ってきましたが、中学生の子供も「またやりたい!」と言ってハマっているので、装備も自前で揃えて家族でサーフィンをしています。

――――人生の転機についてお聞かせください。

 経歴の中でも触れていますが、Nor-Shippingでの経験は、まさに青天の霹靂と言える出来事でした。しかしそれ以上に、社長就任後から会社を軌道に乗せるまでの紆余曲折は、非常に大きな転機です。

――――「座右の銘」についてご紹介をお願いいたします。

 「座右の銘」とは少し異なりますが、常に大切にしていることは「自然体」でいることです。自然体で力を抜くことで、あるがままに物事を見ることができますし、自分らしさを発揮できる状態にもなります。ゴルフでも力を入れすぎず、たとえバンカーに入っても砂の上にボールがあるだけ・・と受け止めて、冷静にクラブを選ぶだけです。笑

――――最近感動したできごと、または夢や目標について教えてください。

 最近一番感動したことは、社員とじっくり向き合うことができた面談です。この場で詳しくお話できませんが、社員一人ひとりとの対話を通して、私自身も多くの気づきを得られます。社員の幸せに会社としてどう貢献できるかを考えることも会社経営の一部だと考えています。
 また、夢や目標については、社員から次の社長が誕生することです。将来的には社員一人ひとりが経営者になれるような仕組みを作っていきたいと考えています。


――――思い出に残っている「一皿」についてお聞かせください。

 神戸市内三宮にある「エノテカ・ベルベルバール」です。美味しい自然派ワインが飲めるお店で、美味しいイタリア料理に合わせたワインを楽しむことができます。カジュアルなお店でお勧めしたいのは、三宮にある焼き鳥屋さん「榮太郎(えいたろう)」です。業界問わず、有名人も訪れる人気店です。

タイトル

 
タイトル――――心に残る「絶景」について教えてください。

 富士登山で見たご来光です。社会人になったばかりの頃、友人と登りましたが、翌日早朝に見た朝日の動きがとても印象的でした。
 最近ですと、今年4月にシンガポールで開催されたSea Asiaに出展した際に訪れた、マリーナベイを一望できる高層階のレストラン「LeVeL33」から見た景色も素晴らしかったです。


タイトル







 

 
【プロフィール】
宗田 謙一朗(そうだ けんいちろう)
1973年生まれ 兵庫県神戸市出身
1997年3月 信州大学 教育学部 卒業
1997年4月 セムコ 入社
2005年より現職

■セムコ株式会社(https://www.semco-ltd.com/

記事一覧に戻る