マーシュ ブローカー ジャパン株式会社
西尾 奈津子 氏 ※部分をクリックしますと前回のインタビューがご覧いただけます――――
※西尾さんは2019年にインタビューさせて頂きました。改めて現在のお仕事内容をお聞かせいただけますでしょうか。
変わらず仕事内容はP&I保険のブローカー業務を行っています。2019年当時担当していたのはノンマリンの保険が6割、P&I保険が4割であったのが、現在はP&I保険がほとんどです。船舶保険やCOFR等も取り扱うようになり当時よりも仕事の幅は広がりましたが、海運業界のお客様向けの業務に集中することになったところが当時と変わった点です。『ブローカー』と聞くと『保険会社と値段交渉していい値にしてくれる人』というイメージを持たれがちですが、必ずしも保険料交渉だけではありません。保険内容についてお客様のご意向を聞き、新たなスキームを考えてプログラムを組成することもあれば、お客様が日常で行っているビジネス形態に合致した保険手配方法に変更する等、金額面だけでなく、内容にも満足いただけるよう日々提案を行っています。――――船主や大手オペレーターは内外航問わず取引されているのでしょうか。
現時点では外航船の船主様、オペレーター様がメインですが、内航の船主様から引き合いを頂くこともございます。外航船がメインとなる理由は、その引き受け手であるP&Iクラブ側との交渉で、インターナショナルブローカーであるマーシュブローカージャパンの強みがより生かせるからだと思います。世界には国際P&Iグループ(IG)に加盟している12のP&Iクラブが存在し、IGは90%以上の外航船の引受を行っています。海外の船主に負けない好条件での保険交渉を行うには、ロンドンやシンガポールいるP&Iクラブの担当者と直接折衝を行うことが肝心であると考えています。マーシュブローカージャパンでは社内のグローバルネットワークを駆使し、日本のお客様のための保険交渉であっても、P&Iクラブとの協議は弊社ロンドンオフィスの交渉担当者が直接行っているのです。日系の外航船主様やオペレーター様が直接行うとなると労力もかかりますので、長年の保険仲介のノウハウを持つ我々が間に入ることで、海外のP&Iクラブとスムーズかつ効率的に交渉できるメリットがあります。――――業務をされていて一番達成感が得られる瞬間はどのような時でしょうか。
前述の国際P&Iクラブの保険の更改日は毎年全世界一律で2月20日です。各P&Iクラブはその更改日に向けて、前年の10~12月初旬頃に次年度の方針を示します。そしてその方針が示されてから我々の『交渉』が本格的に始まるのですが、そこから動き始めるのでは2月20日には間に合いません。方針が示される前からお客様のロスレコードや現状の保険料水準などの分析を行い、次年度更改に対してお客様が期待するものを確認しターゲットを設定します。各クラブとの『交渉』が開始された後は、P&Iクラブからの見積り打診→お客様へのフィードバック→お客様との打合せ→P&Iクラブへの再交渉、この繰り返しです。お客様のご意向によってはP&Iクラブ自体を変更する時もあり、そうなると作業量も各段と増えます。
最初にお話をした通り、P&I保険の更改日は一律で2月20日なので、期日までに必要な証書類を揃え、本船に備え付けないと港に入港できなくなってしまいます。理想的には、1月末までには更改内容をまとめておくと関係者にとってスムーズです。各お客様、P&Iクラブに対して、限りある時間の中で提案と交渉を同時並行で行わなければならないので、更改前は業界全体がハードスケジュールとなり苦労する場面も多々ありますが、交渉がまとまり、全ての証書が本船に備え付けられた瞬間は、大きな達成感が得られます。――――期日に向けて常に逆算して計画を立てて取り組まれているのですね。ちなみにP&Iクラブを変更するケースはどれくらいあるのでしょうか。
あまり多くはありません。P&I保険の主なカバースコープは賠償責任ですので、財物にかける船体保険とは異なり常に“相手方”ありきです。クレーマントが多数になることも多く、保険金支払いまでに長い年月がかかることも珍しくありません。実際にニュースで取り上げられるような大きな事故が発生すると、完結するまで最低でも数年、さらには10年近くかかる場合もあります。そのようなクレームの性質にも関わらず、P&Iクラブを頻繁に変更してしまうと、未完了のクレームハンドリングのみが残ってしまうこととなり、クラブ・お客様双方にとって良好な関係性を維持するのが難しくなる可能性もありますので、P&Iクラブを変更するには慎重な判断が必要となります。それでも、単に保険料に対しての不満というのではなく、クレームに対する考え方の相違や、各P&Iクラブの長期的な財務基盤の安定性を比較した結果など、お客様のご意向によってはP&I保険のクラブ変更を行うケースは存在します。――――そもそも保険を扱う仕事に就いたきっかけは何だったのでしょうか。併せて簡単なご経歴をお聞かせください。
実は社会人になるときに保険業界にチャレンジしたいという意思はなく、最初に入社した会社は人材紹介業を行っている会社でした。一身上の都合で2年目に退職した後は、人材派遣会社から独立系の保険代理店・ブローカー業を行っている会社を紹介いただき、最初は3か月だけ働く予定でそちらに入社しました。細かな保険事務が偶然にも自分の性格に合っていたこともあり、保険の仕事がとても気に入り、そのまま正社員になることができました。
それから間もなくして、その会社が当時日本ではまだ馴染みの薄かったP&I保険のブローカー事業に参入することとなり、そのスタートアップにメンバーとして参加することになりました。
大学時代に1年間アメリカに留学していたことがあり、英語での業務に抵抗がなかったことが理由でしたが、これこそが現在のキャリア、そして海運業界に触れるきっかけになったのでご縁にとても感謝しています。その後、2018年に現在のマーシュ ブローカー ジャパンに入社しましたが、P&I保険のブローカーとしての仕事は継続しており今年で12年目になります。一番初めはバックオフィス業務からのスタートだったのが、徐々にお客様の主担当を任せてもらえるようになり、現在では業務の上流から下流までP&I保険の一連の仕事は一通りこなせるようになりました。――――まさにP&I保険のスペシャリストですね!
今となってはP&I保険に携わる事が大好きになりました。船主様やオペレーター様はもちろん、P&Iクラブの方々とも長年の関係性があります。信頼関係を第一とするこの仕事だからこそ、皆様使命感を持って働かれていて、私自身もやりがいのある仕事だと感じています。――――前回のインタビューは2019年で、新型コロナウイルス流行前でした。当時からコロナ禍を経て働き方も変化したと思いますが、変化して良かった点・難しかった点があれば教えてください。
まず良かった点は、WEBで会議や面談ができるようになったことです。社会全体としても大きな変化だったのではないかと思います。海外オフィスとのやりとりも、スムーズにできるようになりましたし、従来だったら会議資料を出席者分何部も印刷しなければならなかったのが、WEBだと画面で共有し、後からメール共有するだけなので100%ペーパーレス化が実現しています。また、直接会って話をするまでもないけれど、電話だけでは物足りないようなレベルの打ち合わせを気軽にできるようになったことは、時間効率の意味でも良かった点だと思います。
ただこれは、既に関係性を構築出来ているお客様だからこそ成立するやり方であって、新規でお取引するお客様に対しては、実際に対面する面談の方が得るものが多いことを実感しました。特にこの海運業界は直接的な人間の付き合いを重んじる文化が根付いていますので、そのような文化に順応しながら新規のお客様を取り込むには、100%WEBで完結させる営業ではなく、やはり人付き合いや温度感を肌で感じながら交流を深めていく必要があると実感しました。――――これからはプライベートの質問をさせて頂きます。休日はどのようにお過ごしですか?前回のインタビューでは娘さんとのおしゃべりが癒しとお話しいただきました。
今も変わらず、休日は家族と過ごす時間がほぼ100%です。前回のインタビュー後、新たに1歳の長男が家族に加わり、子育てに奮闘しています。一人で外出したり、買い物をしたりという時間はほとんど無くなり、基本的には家族全員で行動し、家族ぐるみで仲の良い子供の友達の家族とBBQをしたりしています。1歳の長男はとてもやんちゃで悪戦苦闘する時もありますが、前回のインタビュー時に話をした長女は6歳になり、6歳とは思えないほど周囲に気遣いができるまで成長したので、長男の育児の支えになってくれています。――――前回のインタビューでご趣味は『仕事』とお答えいただきましたが、現在のご趣味は?
仕事が好きということは変わらないのですが、家族も増え、仕事だけに邁進するわけにはいかなくなりました。趣味と言えるものではないですが、YouTubeで『時短・手抜き・家事』と検索して世の中の皆さんのストレスフリーな家事・育児方法を学ぶ時間が楽しいです。自分では思いつかない想像の斜め上を行く発想や裏技を発見することができるので、思わず笑ってしまいます。実際に自分の生活にも取り入れて役立っているものも多いです。――――今後チャレンジしてみたいことを教えてください。
コロナ禍になって体を動かす機会も激減してしまったので、体を鍛えたいなと考えています。もともとタフで体力もある方だと自負していたのですが、在宅ワークの影響で体力の衰えを感じています。昨年、弊社に新たに50代の社員が加わったのですが、その方がトライアスロンを完走するくらいパワフルで、一緒に営業に行った際は、歩くスピードについていくのがやっとでした。今後も一緒に活動して行くことになるので、私自身も体力をつけるために体を鍛えてないといけないなと痛感しています。
また、これは偶然かもしれませんが、P&I保険のお客様は山登りをされている方が多くいらっしゃり、その方から見せて頂いた山頂からの絶景の写真を見て、いつか自分もチャレンジしてみたいと考えています。――――在宅ワークが増えると運動量も低下してしまいますよね。体力がある方と自負されていたということですが、学生時代の部活動は何をされていたのでしょうか?
中学時代は陸上部でハードル選手、高校時代には機械体操部に所属していました。もともと運動は好きで、体力には自信があったのですが、運動をしないと体力維持をすることも大変だと身をもって感じています。――――最後に人生で一番思い入れのある一曲とそれにまつわるエピソードを教えてください。
思い入れのある曲ではないのですが、今までで一番聞いた曲は『おかあさんといっしょ』で流れている『からだ☆ダンダン体操』です。2020年にコロナで在宅ワークが始まった時は、毎朝この曲と一緒に仕事を開始していました。長女も長男も大好きで、曲に合わせてたくさん踊りました。先日は70歳を超える私の母まで子供達と一緒にリズムを取っていました。
これまでの人生の中で、たくさん聞いてきた曲があると思うのですが、これ!というものがすぐに思いつかなかったので、この1曲を挙げさせていただきます。今はどうしても子供中心の生活なので、耳に入ってくる音楽は教育番組の歌や、アニメの主題歌などが多くなっています。