神奈川機器工業株式会社
代表取締役社長
卜部 礼二郎 氏
――――船舶用をはじめとしたディーゼル機関のフィルターなどを中心に、近年では船の安定性を保つバラスト水処理装置で注目を集めており、創業から70年以上の歴史がある、神奈川機器工業株式会社様の概要・特色について、ご紹介をお願いいたします。
船舶用のフィルターについては、潤滑油用、燃料油用、バラスト水用の3種類を提供させて頂いています。当社は『ノッチワイヤーエレメント』という独自のフィルターの品質と性能を持っています。一般的には金網式やカートリッジ式というものが多いのですが、耐久性に欠けたり、交換の必要があったりといずれも流体の流れを止める必要があり、消耗品としてのコストもかかります。一方ノッチワイヤーエレメントは金属製で扱いやすく耐久性に優れ、半永久的に使用でき、取り外す必要が無く流体を逆方向に流すこと(逆洗浄)で異物を除去しメンテナンスが行える点が強みとなっています。フィルターは一本ではなく複数本を束にして利用しますが例えば、20本ある場合、19本を正常に稼働させてフィルタリングさせて残りの1本を逆洗浄して洗浄するという仕組みを自動的に切り替えながら行うことで機械を止めることなく、フィルターを綺麗な状態で維持できます。また、利用用途によってフィルターの目の細かさも異なり、オーダーに応じたフィルターを製造しています。このノッチワイヤーエレメントという技術は当社の特色であり、強みであると考えています。また当社のグループ会社に株式会社ロカテックという会社があるのですが、こちらは当社のスペア部品の販売などを行っています。
他にも食品業界や、鉄鋼業界向けのフィルターを提供していますが、売り上げ比率で考えると凡そ85%は船舶向けのフィルターになっています。昨今異物混入などで食品業界が注目を浴びていますが、そのようなことが起きないようなサポートを今後拡充させていきたいと考えています。――――独自の素晴らしい技術で製造されたフィルターで各業界を支えられていることが分かりました。フィルターを製造・販売するにあたり、競合他社は存在するのでしょうか。
船舶用に関しては約80%の国内シェアを当社が占めていますが、世界に目を向けると大手会社も存在しています。当社としてはよりグローバルな競争力を高められるよう営業活動含め取り組んでいきたいと考えています。そのために当社ではTOEICを受験し一定の成績を収めた社員については給料支給且つ学費等会社負担で海外研修に行くことができる制度を設けて社内からグローバル化を図ろうとしています。すでに2名が実際に海外研修を行った実績があります。――――昨今の環境規制強化やDX化などの動きが加速する状況において、取扱製品や社内の変化について、お聞かせいただけますでしょうか。
ゼロカーボンが世界中で謳われている中、今後10-15年程度影響はないのかもしれませんが、実際にC重油が利用されなくなったらフィルター自体需要が無くなってしまう可能性が高いため、現状のままでは当社としては打撃になると考えています。しかし、それに代わるメタノールやLNG、水素等の代替燃料に関するフィルターの受注に向けて力を入れていかなければならないと考えています。ただ一方でゼロカーボンに向けて全業界が取り組んでいますが、その中で最新の精製過程ではC重油は著しく少ないらしいですが、精製自体はされ続けますので実際にゼロカーボンを取り入れた後のC重油の行方は気になる所ではあります。――――これまでのご経歴についてご紹介をお願いします。
出身は横浜で、日本大学を卒業し1995年に神奈川機器工業株式会社に入社しました。神奈川機器工業株式会社の創業者は秋山二郎(※後述)なのですが、その長女の夫が私の父でした。秋山二郎の子供が姉妹ということもあり後継ぎに父が選任され、その後任として私が現在代表取締役社長となっています。名前の通り私自身男2人兄弟の次男なのですが、兄は当社と関係のない会社でサラリーマンをしています。父が家族会議で後継ぎを決める際に兄は高学歴で言われたことに対して従順にこなす性格であり、一方私は柔軟な対応が得意で会社の後継ぎには私がふさわしいのではないかと考え2004年に現職になりました。――――人生の転機についてお聞かせください。
1995年9月に当時当社と記述連携先であった英国のVOKES社に約4年間出向していました。当時出向した頃は250人ほどの会社だったのですが、M&Aとリストラが相次ぎ1999年に日本の帰国する頃にはVOKES社の社員が100名ほどまでに減少していました。出向している4年間で正社員にもかかわらず『明日からこなくてよい』と突然リストラのアナウンスをされる社員を見かけることも少なくありませんでした。リストラを宣告された社員が涙を流していた光景を何度も見て心が苦しくなった記憶が強く残っています。一方で父から社長の座を継ぐ際には『社員の雇用を簡単に切ることは絶対に行うな』と強く進言されました。これは父が代表取締役社長に就いた直後の昭和61年ごろに社内でリストラを行わなければならない状態になり、苦渋の決断だったので繰り返し行わないよう私にアドバイスをしてくれたのだと思います。父からの言葉と英国での実体験を肝に銘じ、社員の雇用を守りつつ人と人との繋がりを大切にしながら現在の職務を全うしています。
――――実は弊社の石田とは英国に在学時からの仲とお伺いしました。
実は英国出向していた時、妻が通っていた語学学校に石田さんも在学中で、その時に何度かお会いした記憶があります。当時から25年以上経ちますが、年賀状のやり取りは今も継続しています。――――「座右の銘」についてご紹介をお願いいたします。
『感激なき人生、それは空虚(うつろ)なり』です。これは創業者の秋山二郎が通っていた旧制高知高等学校(現高知大学)の初代学長の訓示の一部です。これは社員にも伝えており、感動を通じて人と接することの大切さを大事にしていきたいと考えています。
――――最近感動したできごと、または夢や目標について教えてください。
あまりそれといったものはありませんが昔からゴルフが好きでよく足を運んでいます。最近では特にコロナ禍で海外出張も激減している中、ホームコース(磯子CC)のクラブ選手権に出場しチャンピオンになったりもしました。そういう意味ではよりゴルフを楽しみつつ上手くなりたいことが目標でしょうか。――――思い出に残っている「一皿」についてお聞かせください。
ロンドン・ハマースミスにあるお店で食べた『FISH & CHIPS』です。当時私が英国に出向していた時は円安でした。会社から支給されていた給料は円建てだったので何をするにもお財布に打撃が大きかった記憶があります。その中で私が英国ミュージシャンのエルトン・ジョンがよく行くお店でFISH & CHIPSを食べようとしたら円ベースで8,000円ほどし、驚愕しました・・・美味しいかどうかは置いておいて当時の金額に驚いたという意味で思い出に残っている一皿です(笑)。
――――心に残る「絶景」について教えてください。
新型コロナウイルスが流行になる前にグリーンランドに旅行したのですが、その時に見た氷河です。氷河を見るために5人乗りの小さなボートで朝7時に出港して約4時間航海をしてようやく氷河に辿り着きました。そして崩れ落ちる氷河を見るために約3時間、船上で待機しながら見た光景はまさに絶景でした。ボートの近くでクジラが潮を吹く場面を見たり、自然を堪能しながらスケールの大きな景色を目の当たりしていい経験をしました。(※)秋山二郎:神奈川機器工業株式会社創業者、旧制高知高等学校卒業後、京都大学に進学、京都大学では機械工学部に所属。大学入学後、日本は戦争になり敗戦。秋山は日本の敗因を問い詰め、戦車で利用していたエンジンオイルが粗悪なものを利用した結果戦車が止まってしまい、攻撃の的になってしまった事が敗因の一因ではないかという考えに辿り着く。その後、1951年に粗悪なオイルから異物を除去する燃料用フィルターを製造する現会社を創業。
【プロフィール】
卜部 礼二郎(うらべ れいじろう)
1971年生まれ 神奈川県横浜市出身
1995年3月 日本大学生産工学部機械学科 卒業
1995年4月 神奈川機器工業株式会社 入社
1995年7月 技術提携先の英国VOKES社へ4年間出向
2004年10月より現職
■神奈川機器工業株式会社(https://www.kanagawa-kiki.co.jp/)