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【まりたん第10回】
日本海事産業の民として、Zero Harmのために愚直であり続ける
< 第541回>2024年01月15日掲載 


RightShip
Assistant Director(Account Management)
山田 優 氏














――RightShip(Japan)の概要と山田さんの略歴についてご紹介をお願いします。

 神戸大学海事科学部を卒業後、商船三井に入社し、海上勤務を経験しました。その後2017年にリベラに入社し、船主・船舶管理 安全部業務に従事していました。その中でRightShipと関わることになり、最終的に入社に至りました (詳細は後述します)。現在は、アシスタントダイレクターとして、RightShipに関わる全案件の窓口として対応しています。その他、有事の際にご連絡を頂いたり、詳細な状況の共有、セミナーやメディア記事を通じた情報共有や契約業務全般も行っています。当初は日本専属として就任いたしましたが、現在我々日本チームは日本に加えフィリピン、韓国も担当しており、それら地域で開催されるセミナーや現地会社様の各種対応にも従事しています。中国及び香港にもそれぞれ担当がおり、それ以外の地域はシンガポールチームが対応をしています。


――船会社からRightShipへの転身の経緯についてお聞かせください。

 私が前職時代に関わっていたRightShipの担当者(シンガポール拠点 - 窓口担当)から話を聞いたことがきっかけです。その前から日本人の人材を探していたようですがなかなか見つからず、声がかかったという理解です。担当者に、「私があまりにうるさいので、顧客としてこれ以上関わりたくなかったのか?」と聞いたところ、笑っていました。
 RightShipへの入社は相当悩みました。当時は船会社の安全部という立場上、会社・船舶をスコアリングするRightShipと喧々諤々協議していましたし、RightShipのこと、それが自分たちの船主・管理業に関わることを理解し納得するまでに時間を要しました。一方で、熟考の末に「RightShipを“無視”するよりも“利用”した方が船主・管理会社として有益」という考えに至りました。そのような経験も有り、日本人として最初にこのポジションに座る人間は、「1隻の船を所有・管理・運航することの大変さを身を以て知っている人間」であるべきと考えました。あくまでRightShipは3rd partyでしかなく、海事産業の主役は船会社様をはじめとした1st partyです。「RightShipとしてモノ申すのではなく、1st partyに献身する土台を形作る」人間が必要であると感じました。私は船会社時代から、立場は”船主・管理会社>RightShip”と思っており、今でもその認識に変わりはありません。
 砕けた言い方をすると、私自身、本気で船主・船舶管理業に取り組んできたという自負がありますので、もし船を好きでもなく船舶業務も知らない人間がRightShipの日本担当として「御社のスコア〇〇点です」などと言ってきたら、承服は難しく。それならば、先ずは自分がそこに座り、船会社の皆さまに貢献すべく全身全霊で献身しようと考えました。
 日本海事産業にとってもRightShipを利用することは有益と思い、覚悟を以て決断に至りこのポジションに参加しましたが、2年経過した今を以てその考えは間違っていなかったと確信しています。



――RightShipを“利用”することは、どのような点で日本の海事産業に有益となるのでしょうか。

 具体的な話としては、2021年にRightShipはセーフティスコアシステムを開始し、船舶だけでなく管理会社のスコアも付与されるようになりました。当初その件に疑義を持っておりRightShipに仔細問い合わせていましたが、このスコアを一定の水準に維持しないと、船主・管理業務への取組・努力が認められないどころか自社船が荷物を運べなくなるケースも在り得ると知りました。「海事クラスターにおける定性評価」に加え、RightShipセーフティスコアシステムによって誰でも全船会社・船舶の詳細情報及びベンチマークを閲覧して定量分析が出来る時代に突入したことを目の当たりにしました。海事産業の一員として、誰もサプライチェーンを止めたいわけはなく、リスクがあればそれに対応するというのは至極当然の流れであり、新たな船主・船舶管理業務の一つとしてこれらの動きに適応しなければならないと感じました。
 一方で、自分たちの船がどれだけ高品質で安全であると自信があっても、それを伝える機会があまりありませんでした。このセーフティスコアシステムへの対応を経て、実際に安全性の向上につながり、それが見える化され、結果的に会社に貢献することができました。このような経緯もあり、上手くRightShipを“利用”することが高品質の日本海事産業にとってプラスになると考えています。



――前職でのユーザーとしての経験が、今に繋がっているのですね。

 もう1つ前職でのエピソードを紹介させていただくと、ある時RightShipから「Protest letter」を受領し報告を求められた際、内容に納得できなかったため「Counter protest letter」を返しました。するとRightShipから「これはターミナルが出しているものだが、RightShipは公平・中立な目線であり本件を事故として扱うわけではない。ターミナルの立場を考えると、カウンターを返すと船会社にとってプラスにならない。気持ちは分かるが、何かしらの原因と再発防止を示して、報告することを勧める。」とアドバイスを受けました。その時改めてRightShipの立場というものを認識し、これを上手く活用した方が船主・管理会社としては有益であると確信しました。


――RightShipとしての活動を始められて2年程度経過しましたが、ご苦労された事や注力された事をお聞かせください。

 苦労したことはほぼ無いです。 私自身、当時RightShipと多く議論をしていたのである程度の心の準備はしていましたし、「日本海事産業のため」と覚悟を決めて入社しましたが、今考えると当時の自分が一番厄介な相手だったのではないかと思います。
 このポジションに就いた当初から心がけているのは「嘘をつかない」、「正直に伝える」、「自分がネガティブな印象を受けてもいいので、先ずは相手にとってプラスの結果となるよう尽力する」といった点ですが、それらがお伝えできているのか、海事産業の皆さま同士でRightShipや弊方の取組について共有や紹介をしてくださり、何から何まで助けていただいています。本来自分の足で動いていかなければならないところ、助け舟に乗っているだけです。
 冒頭で述べた、日本専属として就任したにも関わらず加えてフィリピン・韓国も担当することになった背景は日本船主の皆様に他なりません。
 この場を借りて、感謝申し上げます。



タイトル――「船会社の目線を大切にする」ことへの想いをお聞かせください。

 「RightShipの日本担当として」のみならず、「日本海事産業の一員としてRightShipに居る」という意識を常に持つようにしています。RightShip入社前から現在に至るまで気持ちは変わらず、何より大事なことは「乗組員の皆さまの安全・海事産業への献身」だと考えています。様々な意見があるとは思いますが、私が思う「海事産業で最も重要なポジション」は、その身を以て船舶を運航しインフラを支えている乗組員です。Zero Harmを直接達成するのは船会社様をはじめとした海事産業の1st partyの皆さま自身であり、我々は3rd partyとしてそのお役に立つことが責務ですので、そのためには船を実際に所有し、管理し、運航する船会社の目線こそが必須であると考えています。


――海運業界(海事産業)に入ったきっかけをお聞かせください。

 神戸が大好きで、高校生の時に大学は神戸大学と決めていました。おしゃれな神戸の街の雰囲気に強い憧れがあり、必ず神戸に住むと心に決めて受験しました。偏差値の関係で海事科学部に進学することになりましたが、入学後は乗船実習など国から多くのサポートをいただいたおかげで、海技士になることが出来ました。日本及び日本海事産業なくして今の自分は存在し得ず、そこに恩返しをしたいという思いがあります。
タイトルタイトル



















タイトル――とても真面目な学生時代だったのですね。

 小中高は遊んでばかりだったので、このまま大学に進学して遊び続けてはいけないという危機感があり、規律を学べると聞いていたカッター部に身を置きました。結果的にたくさん楽しませていただきましたし周囲から真面目といわれたことはありませんので、その点は気にしないようにしています。










タイトルタイトル――プライベートで最近ハマっているものはありますか。

 昨年、葉巻とシーシャデビューをしました。いつか身長が伸びることを信じ我慢してきましたが、いよいよけじめをつけました。元々お酒が好きで、その時間・空間を更に良いものにしたく、愉しませていただいています。


――休日はどのように過ごされていますか。

 月に数回は映画館で映画鑑賞をします。本はほぼ毎週末読みますし、ジョギングや自転車で自宅近くを散策したり、近所の滝を訪れてのんびりとした時間を過ごしています。


――最近感動したことをお聞かせください。

 冒頭の写真でも紹介している、シアバターとの出会いです。私自身、敏感肌でアトピー性皮膚炎なので、自分の肌に合うクリームをずっと探してきたのですが、ワセリン以外で荒れないものは初めてです。ここ数年で一番嬉しい発見と言っていいほどお勧めしたいです。船上には肌の悩みを抱えて苦労している船員もいらっしゃるので、この情報が少しでもお役に立てば幸いです。


――山田さんご自身、そしてRightShipとして、今後日本の海事産業をどの様に発展させて行きたいかお聞かせ下さい。

 このポジションに居るからこそ再認識したことは、日本の海事産業がいかに高品質であるか、情報に対するアンテナを強く張り、どれほど海事立国として世界に名を馳せているかということです。海事産業において、要求が増えることはあれど減ることは中々ありません。刻一刻と状況・業界基準は変化し、それらに対応するには多大なる労力・負担を要します。しかし、日本の海事産業の皆さまは、意見や思うところが多々あったとしても、それら要求・変化に「適合・対応」することを前提として会話をしています。世界全体に目を向けたとき、この姿勢・取組・根幹に存在する文化や考えが、いかに高い水準であるかということが見えてきます。安全なんて二の次、多少のトラブルがあろうと荷物が運べればそれでいい、という考えが当たり前でないことが、どれほど素晴らしいことか。
 今後も、そのような高品質の日本の海事産業に身を置かせてもらっているありがたさを噛み締めながら、乗組員の皆さまが無事家に帰ることができるZero Harmを目指し、愚直に全力で取り組んでいきたいと思います。



 
【プロフィール】
山田 優(やまだ ゆう)
静岡県三島市出身
2011年 神戸大学海事科学部卒業、株式会社商船三井入社
2017年 リベラ株式会社入社
2021年11月 RightShip入社、日本チーム設立

■RightShip HP(https://rightship.com/
■お問い合わせ(E-mail): info@rightship.com

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