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【まりたん第12回】
船員とその家族の幸せを目指して
船員の声が導くプラットフォームを創る
< 第543回>2024年03月01日掲載 


MarCoPay Inc.
藤岡 敏晃 氏
竹中 亮太 氏
橋詰 脩平 氏
所 礼峰 氏












――船員向け電子通貨プラットフォームを運営するMarCoPayグループの概要についてご紹介をお願いします。

竹中 船員が抱える金融課題を解決し、船員の豊かな生活と幸せの実現をビジョンに掲げ2019年7月に設立しました。2021年8月から電子通貨による給与払いを開始し、その後日本郵船の全管理船へ導入を拡大、2021年末頃には第三者へのサービス提供を開始しています。2022年3月には『MCP eマーケット』をアプリ内に新設し、給与以外の福利厚生サービス(融資、保険)を利用できる体制が整いました。2023年には新車や不動産、農機購入のサポートサービスなども開始しており、船員やその家族がより幸せな生活を送れるよう、現在も複数のサービスを検討している最中です。
 船員は乗船ごとの期間契約という雇用形態であるため、経済力が適切に評価されにくい現状があります。そのため、本来の経済力に見合った評価や待遇を受けることができるよう、我々が提供する総合金融プラットフォームを通じて船員の信用力を適切に評価し、様々なサービスを利用できる支援を行っています。例えば、船員が下船(休暇)中に急な出費や大きな出費が発生した場合、電子通貨で支払う船員の給与が信用となって、休暇中融資のサービスを利用することができます。融資の方法に関しては、当社が貸し手となるもの、若しくは当社が提携する金融機関を紹介する2タイプがあります。
 我々がマーケットとして捉えているのは、世界各国の船員、そして海外で働くフィリピン人です。その中でも先ずは船員の生活を豊かにすることを目標に、これら2つが重なるフィリピン人船員を初期の対象としています。今後はその対象を双方に広げていきます。
 また、サービスに関しては、大きく5つの軸があります。1つ目はペイロール(給与支払い)、2つ目が融資、3つ目が医療保険、4つ目がディスカウントサービス、5つ目が投資商品の販売です。給与や融資、保険サービスは、大分 サービスが充実してきており、最近では特にギリシャ船主・船舶管理会社からの船員・ご家族向け医療保険に対するニーズが高まっています。今後は船員の資産形成を支援する貯蓄や投資商品など、さらなるサービスの充実を図っていきたいと考えています。



――これまでの営業活動の様子やその手ごたえをどのように受け止めていますか?

藤岡 竹中、所を中心に現地で営業活動を行いながら皆さまの声を聴き、橋詰が金融機関のバックグラウンドを活かしてサービスを構築しています。明確に役割分担が決まっているというより、日本人メンバー全員で営業活動を行い、導入等のオペレーションは現地メンバーが中心に行っています。おかげ様で認知度も上がってきており、皆様からのご支援に日々感謝しています。導入に関しては発展途上ですので、さらに広げることができるよう、積極的に営業活動を行っていきたいです。少しでも興味関心を持っていただけましたら、お気軽にお問い合わせください。

 2023年に入り、本格導入が増えてきました。2022年頃から日本郵船以外の会社へのトライアルを行い、ここにきてようやく実を結びつつあります。営業活動を通して、船主(管理会社)、マンニング会社、船員、夫々の反応に多少の違いはありますが、概して皆さまから前向きな反応をいただいています。
 船主(管理会社)に関しては、ペイン(問題意識・課題感)を抱えているのでぜひ採用したいという声が多く、コンセプトへの共感も得ることができています。また本導入により、本船現金送金コスト削減の他にも、陸上業務効率化に繋がることより、コスト負担に対するネガティブな反応も少ないです。
 マンニング会社に関しては、電子通貨に対する不安の声が一定数見られます。フィリピンではGCashという電子決済アプリがコロナ禍を経て急速に普及しているものの、電子通貨になじみがない方がいらっしゃるのも事実です。そのような時は、我々の株主構成に裏付けられた財務基盤や、日本郵船全船での導入実績、セキュリティ対策の強化について丁寧に説明することで、不安を解消できるよう努めています。また2024年1月よりCBA(労働協約)が改訂され、電子通貨での給与払いが認められたことも追い風だと考えています。
 船主(管理会社)やマンニング会社にヒアリングを行うと、船員の意見を知りたいという声をいただくので、船員向けの説明会も多く実施してきました。丁寧にご説明をし、Q&Aで不明点をクリアにした後にアンケートを行うと、約90%からトライアルを実施してみたいという回答が得られ、船員の皆さまからも良い反応をいただいています。


竹中 今こうして皆さまの理解が得られているのは、サービス企画・開発の段階から、管理会社やマンニング会社、船員の声を頂戴できたからであり、皆さまの全てのコメントに心から感謝しています。

 竹中の言う通り、2年半でここまで成長することができたのは、先ず郵船グループで船舶管理している約200隻全てを対象にトライアルを行いながら問題を洗い出し、それを解決しながらサービス改善ができたからです。最初から第三者向けに展開していたら、これほどのスピードで広げることができなかったと感じています。
 電子通貨は、もはや新技術ではなく日常に欠かせない存在だと考えています。今後も良いサービスを業界に広げていきたいと考えています。


竹中 我々のサービスは、一見新しいことに取り組んでいるように見えるかもしれません。でも実際に行っているのは地道で泥臭いとも言えるような営業活動を通して関係者の声を聴くことです。新たなサービスを検討する際は必ず仮説を立て、それに基づいた船員アンケートを実施します。声の大きい1人の意見を聴くのではなく、1,000人居たらそのうち何人が求めているのか、数字の事実として把握するようにしています。

橋詰 例えば、2023年10月から、クボタのフィリピン国内販売子会社クボタ・フィリピンズ(KPI社)と業務提携し、農業機械の購入サポートを開始しました。こちらのサービスに関しても、船員は下船期間中給与収入がなくなるため、副業として農業を行っているケースが多い、という仮説からクボタ様と会話を進め、事前アンケートの結果から、地元船員の25%が農場を持ち、その半分が第三者従業員を雇用しているという事実を確認しました。単なるマッチングではなく、我々の強みである低利金融サービスをどのように絡めていくことができるのかを考えており、今後は農機購入時のローン提供やその他農業関連サービスとの提携を模索していきたいと考えています。我々のサービスの基軸は電子通貨による給与支払いですが、融資や保険、貯蓄、投資商品など、ニーズに合わせてサービス拡大を行っています。コロナ禍後を迎え、船員を取り巻く環境も変わりつつありますので、社会事情や環境の変化にアジャストしながら、今後もサービスの改善や新しいサービスの構築を進めていきたいと考えています。


――ユーザーの皆さんの反応についてお聞かせください。

竹中 既存サービスの改善や新サービス構築のために、我々は常にユーザーの元に足を運び、アンケートを実施しています。とにかくユーザーの声を聴くことを大切にしており、これまで実施したアンケートの膨大なデータを蓄積しています。その一部をご紹介します。

ユーザー(船員)から寄せられたコメント
・MarCoPayは使いやすいインターフェイスで、シームレスな取引が可能。
・家族への送金にとても便利で、為替レートも地元の銀行と比較して好条件である。
・アプリが使いやすく、家族への送金や臨時送金が簡単にできる。
・とても簡単で使いやすい。
・MarCoPayは本当に便利。MarCoPayのおかげで、貯金や必要に応じた家族への送金ができる。
・MarCoPayのカスタマーケアは非常に頼れる存在で、新しい携帯電話へのアカウント移行の際も迅速に対応してもらえた。また、アプリは1アカウント1デバイスであるため、安心してアプリを使うことができる。
・MarCoPayの口座振替機能を使った口座の引き落とし手続きは迅速でスムーズ。
・ユーザーフレンドリーなアプリで、提携銀行との取引、送金、受け取りにおいて安全性を実感している。 Wi-Fi接続が安定していれば、船内からの送金も問題なく行うことができた。


――皆さまの趣味や休日の過ごし方についてお聞かせください。

藤岡 週末に、フィリピンの地方に住む船員のお宅を訪問し、船員とそのご家族の暮らしや地元の食事に触れることです。最近はあまり行くことができていませんが、とても充実した時間を過ごすことができました。歓迎の雰囲気の中、家族を大切にする現地の生活に触れる機会は、とても良い経験となっています。当社としても、海運産業を根底から支えるフィリピン人船員と彼らを支えるご家族をサポートできることに喜びを感じますし、それを一緒に考えてくれる仲間達と、船員の幸せを真剣に考え、その繁栄に繋がるサービスをお届けしていきたいと考えています。
 これまでバギオ、ミンドロ、ダバオ、ビコールなど、様々な地域に足を運びましたが、文化や人、食の違いにも触れることができました。食に関しては、米どころミンドロ地方の米の美味しさを実感しましたし、ビコールでは唐辛子を使った伝統料理である「ビコールエクスプレス」や唐辛子入りのアイス「ボルケーノアイス」など、地方独特の味を楽しむことができました。


 休日はゴルフをすることが多いです。フィリピン駐在となった当時はコロナ禍の真っ只中で、会食はもちろん、対面での面談含め業界の方々と接する機会はほとんどありませんでした。そのような状況の中、屋外で出来るゴルフは感染リスクを抑えながら、唯一お客様と直に接するチャンスということもあって始めました。今では営業活動に欠かせない存在になっています。

橋詰 休日は家族と過ごすことが多く、日本に居る時以上に家族との時間が増えているので、絆が深まっていると感じます。子供を介してパパ同士で繋がることもでき、新しいコミュニティへの参加も楽しんでいます。

竹中 私も休日は家族との時間が多いですが、12月下旬に当社グループ3社の社員35名程で社員旅行に行きました。マニラから1時間半くらいのラグナに温泉付きの1戸建てを借りて1泊しました。チームビルディングを行い、皆で料理をしたり、クリスマスパーティーでプレゼント交換をしたり、プールに飛び込んだり(笑)、非常に楽しい時間でした。特に現地の社員はクリスマスに対する本気度が高く、ゲームの事前準備も入念でした。橋詰の携帯電話がプールに落ちてしまうハプニングもありましたが、社員間のコミュニケーションが深まり、一体感が生まれたイベントになりました。
 また現地では、「マニラ海洋会」という船関係で働く人たちが集まるコミュニティにも参加させていただいており、その中で学びや出会いの機会を多くいただいています。社員に限らずこのような現地のコミュニティ、様々なステークホルダーに支えられていること、人の大切さをこの4年間で強く実感しており、関係者の皆さまに恩返ししていきたいと心から感じます。


――MarCoPayが目指していることや今後挑戦したいサービスについてお聞かせください。

竹中 おかげさまで2023年以降利用者も拡大しており、現在も成長を続けています。2024年以降も更なる利用者の拡大を図ると共に、フィリピン人船員以外にスコープを広げてサービスを拡充し、成長を止めることなく前進したいと考えています。それによって、より良いサービスを皆さまにお届けすることが、これまでご支援下さった全ての方々への最大の恩返しだと考えています。

藤岡 我々のサービスの基本精神は、フィリピン人船員の持つ潜在的な価値が評価され、ご家族も含めて幸せにキャリア(人生)をエンジョイできるように適切な手段をお届けすることです。約3年間で電子通貨事業を展開し、融資や医療保険などのサービスも充実してきました。これらがより多くの船員とその関係者に届くことで、これまでの我慢や不便が改善されるだけでなく、そのキャリアを通じた幸せを感じてもらいたいと考えています。優秀な船員の確保やそのパフォーマンス、彼らとそのご家族の幸せは、船主の大切な資産である船舶と、そしてその船舶の日々の運航による価値の循環は、正に海運ビジネスの根幹と密接に繋がっています。
 船員が適切に評価され、職業としての価値や地位向上が実現すれば、次世代の船員に優秀な人材が集まることにも繋がりますし、船舶の安全運航を現場で支える船員の価値と満足度が向上することで、海運チェーン全体の繁栄にも繋がると考えています。
 我々が提供する福利厚生サービスは、まだ向上の過程にあり、船員を取り巻く環境や社会事情等を考慮しながら改善を進めている状況です。今後はQRコード決済網への参加や融資以外の貯蓄や投資商品、資産形成を支援できるサービスなど、日々の生活とライフイベントを支援できる一歩進んだサービスを展開していくべく準備を進めています。これからも腰を据えて愚直に取り組みを進め、皆様と共に船員の更なる幸福と海運チェーン全体に良い循環を生み出すべく邁進していきたいと考えています。


 
【プロフィール】
藤岡 敏晃(ふじおか としあき)
2000年 慶応義塾大学卒業、日本郵船株式会社 入社
2010年 NYK Bulkship Atlantic N.V., General Manager
2015年 日本郵船 秘書グループ調査役 社長業務秘書
2018年 日本郵船 デジタライゼーショングループ MarCoPay プロジェクトマネージャー
2019年 MarCoPay Inc., CEO and President.

竹中 亮太(たけなか りょうた)
2004年 学習院大学卒業、日本郵船株式会社 入社
2013年 BAO-NYK SHIPPING PTE. LTD.
2016年 TATA NYK SHIPPING PTE. LTD., Executive Director
2018年 日本郵船 グループ経営推進グループ 兼 日本郵船労働組合 委員長
2019年 MarCoPay Inc., Chief Sales/Strategy Officer
2021年 MCP Finance Inc., MCP Insurance Management and Agency, Inc., MCP Innovations, Inc., CEO and President

橋詰 脩平(はしづめ しゅうへい)
2012年 一橋大学卒業、株式会社三菱UFJ銀行 入行(新大阪支店配属〔法人営業〕)
2014年 錦糸町支店(法人営業)
2017年 財務開発室名古屋(M&Aアドバイザリー業務)
2019年 財務開発室大阪(M&Aアドバイザリー業務)
2022年 MCP Finance Inc., MCP Insurance Management and Agency, Inc., MCP Innovations, Inc.出向、Deputy General Manager/経営企画・営業企画・内部管理/運営担当

所 礼峰(ところ れお)
2014年 慶応義塾大学卒業、丸紅株式会社 入社(船舶第一部 営業課〔新造船営業・アジア担当〕)
2017年 船舶第一部 事業企画チーム(事業企画、船舶管理、中古船、用船)
2019年 船舶プロジェクト推進室 新規事業開発チーム
2021年 船舶プロジェクト事業部 新規事業推進課
 同年 MarCoPay Inc. 出向、Senior Sales Manager

■お問い合わせ先
MarCoPay Inc. (www.marcopaygroup.com
sales@marcopaygroup.com (日本語・英語共に可)
+63-917-872-0838 / +63-917-821-8205 (日本語・英語共に可)

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