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【まりたん第13回】
創業から成長・拡大へ
電気運搬船から洋上風力、蓄電池生産、電力事業、
パワーベース(岡山)稼働と、その先も続く挑戦
<
第544回
>2024年04月01日掲載
PowerX, Inc.
取締役兼代表執行役CEO 伊藤 正裕 氏
執行役 製品開発・生産領域管掌 池添 通則 氏
船舶・風力発電事業部長 佐藤 直紀 氏
電力事業部長 飛澤 航平 氏
――創業以降怒涛の3年間だったと思いますが、まずは伊藤社長よりPowerX社のこれまでの振り返りと現状をお聞かせください。
伊藤
現時点で岡山の工場の立ち上げは無事完了し、製品の出荷も始めています。2月末に2024年モデルの新商品を一斉にリリースしますので、商品開発も生産も順調に進んでいます。勿論立ち上げ期の苦労・苦悩はありますが、チームで乗り越え、何とか進めてきたという印象です。
現在パワーエックスには事業が大きく3つあり、1つ目は蓄電池の販売、2つ目が電力の販売、3つ目が電気運搬船です。蓄電池の販売に関しては、現在の売上の8~9割を占めています。充電ステーション事業と電力販売も順調に推移しており、充電ステーションは今年100拠点まで展開する予定です。電力販売事業については、今のところ2社発表しており、日本郵政様と三菱UFJ銀行様にPPA(電力販売契約)を通じて電力を供給します。お陰様で大変多くのお客様から引き合いをいただいている状況です。電気と電池を組み合わせることによって、電気代の削減や再生エネルギー比率の向上といった効果があります。蓄電池ですのでBCP(事業継続計画)目的でご利用いただく事も可能です。そして、スーパーやコンビニ、小中規模の倉庫や工場といった様々な事業に合うサイズの蓄電池をリリースしますので、ちょうど良いサイズの蓄電池を電力とセットで提供できる唯一のメーカーだと自負しています。
電気運搬船については、海の事業であるという特殊性に鑑み、「海上パワーグリッド株式会社」を子会社として分社化し、2024年の4月末に事業説明会を行う予定です。いよいよ電気運搬船の本格的な活動を開始します。
2024年の目標は、我々の技術を結集させ、残る必要な試験をクリアしてビジネスモデルを確定すること、そして2026年中の運航を予定通り行うための基礎を造ることです。海事産業の皆さま方にご説明するとしたら、荷主=パワーエックス電力事業部、運航者=委託(送配電)、船主=海上パワーグリッド社、とお伝えしたらご理解いただきやすいかもしれません。船を蓄電所と見立てた場合も、パワーエックス電力事業部が船を借り、また荷主としてはその荷物となる「電気」を売り買いするイメージです。
――2024年は年明けに大きな地震災害もありましたが、災害対応についての蓄電池や電気運搬船の展望は?
伊藤
今年リリースする新商品では、自立運転ができるようになります。通常、非常用発電機はディーゼル燃料で動かす事が多いですが、燃料切れになると給油所で順番を待つ必要があります。ソーラーや小型の風車がオンサイトにあれば、その電気を蓄電池に溜めて自立運転で稼働させ続けることができますので、道路の寸断や停電が発生していても、25kW程度(約300㎡の広さのソーラー発電所)がオンサイトで確保できていれば、最低限の暖房と通信用の電気が確保できるのではないかと思っています。行政・自治体様からのお問合せも増えています。
――Power Base、岡山工場も立ち上がり、組織も拡大されています。
伊藤
最初は5名からのスタートで、事業発表時点では7~10数名。2024年の年初時点で、リモート勤務者や神奈川にあるラボを含めて約120名、岡山工場はこれとは別に40名います。業界外から集まって来た人も多く、風力、電気、自動車メーカーやエネルギー等、出身分野は多岐に渡ります。ソフトウェアエンジニア系の社員は、大手検索エンジン会社でアプリを作っていたなど、船や電気とはちょっと毛色の違う人間もいます。エンジニア系社員はリモート勤務者も多く、まだ会ったこともない、本当はAIなのではないか?(笑)、と思う社員もいますが、毎日出社をしたいという社員もおり、多様な人材が多様な働き方をできる会社になってきています。平均年齢も立ち上げの頃は皆アラフィフでしたが、今は社員の平均年齢も38.9歳(役員除く)と、だいぶ若返っています。因みに私(伊藤)は今年で41歳を迎えます。
――伊藤社長には、今後も種々ご講演等でお話をお伺いするとして、海事産業の読者へ向けてひとことお願いします。
伊藤
今年はとにかくやる事が決まっていますので、しっかりとやり切るだけです。今年後半には生産が集中しますので、万全の体制で臨むべく、現在基礎体力作りを進めています。電気は使う人あっての電気です。まずは作らないと届かないわけですが、我々が提案するのは、電気を届けるための送電網を補強する策であり、これを是非一緒にやっていただきたいと思いますので、引き続きご理解、ご支援いただけましたら幸いです。
――船舶風力発電事業部についてご紹介をお願いします。
佐藤
船舶・風力発電事業部は、電気運搬船事業を船級協会、船主、造船所様にお力を借りながら進めています。主な業務は、電気運搬船の設計におけるプロジェクトマネジメント、電気運搬船を使用してもらえる場所を探すことなどです。電気運搬船は風車との連携が必要ですので、洋上風力発電事業者の皆さまに当社のことを知っていただき、プロジェクト検討時には、電気運搬船も併せて検討いただけるような活動もしています。事業部のメンバーには、船関係、海洋開発関係、風力のディベロッパーの出身者がおり、人数は少ないながらも、チームとして上手く機能していると思っています。海上パワーグリッド社については、2023年のバリシップで発表させていただいた通り、2024年の2月に船舶・風力発電事業部を切り出す形で、パワーエックス社の子会社として設立します。
まずは会社という「箱」を作ることを目指しており、今後どのような活動を行うかは、また別の機会にお話できればと思います。ただ、船に乗せる舶用電池はパワーエックス社より購入予定ですので、パワーエックス本体との繋がりは続きます。船はパワーエックスの顔であるものの、最近は電気運搬船より蓄電池とEVが少し目立っているということもあり、海事業界の皆さまからすると、「本当に船をやるのかなぁ?」と不思議な会社に思われているかもしれません。その点は、電気運搬船事業に特化した海上パワーグリッド社を設立することで、幾分分かりやすくなればと考えています。
――佐藤さんは最古参メンバーと伺っています。
佐藤
2021年8月に初めて伊藤に会い、下準備をしながら同年12月に入社しました。私は若い頃から再生可能エネルギーに関心があり、前職含めて風力発電業界に20年弱関わってきました。現在52歳ですので、キャリアの半分は風力関係です。これから脱炭素や再エネ化を進めていく上で蓄電池が必要になりますので、パワーエックスの電気運搬船+蓄電池+洋上風力という組み合わせは、
再エネの市場が広がり、新たな循環が産まれるというイメージを、私の中で明瞭に描くことができました。
――立ち上げ期から現在まで激務の連続と拝察しますが、お休みは取れていますか?
佐藤
休みはしっかり取れています。休みの日はもっぱらサウナに行っています。フィンランドで船と洋上風力の仕事をしていましたので、当時はサウナ漬けでした。フィンランドでは自宅にもサウナがあり、毎日入っていました。そのような経緯もあり、日本に戻ってきた今でもサウナは習慣のひとつになっています。
――製品開発・生産領域についてお聞かせください。
池添
私は現在53歳で、製品開発・生産領域を担当しています。チーム構成は、自動車業界出身者、民間用蓄電池を手掛けていたメンバ―などが集まっています。
2023年の秋から生産が始まりお客様に納品していますが、蓄電池付き超急速充電器ハイパーチャージャ充電設備は自社工場(パワーベース)で製造しており、コンテナタイプの定置用蓄電池メガパワーは近隣の三井E&S様へ生産委託しています。
ハイパーチャージャはまだしも巨大なコンテナサイズの充電設備の生産は難しいと思っていましたが、造船所様からすればお手の物とのことで、船という大型製品の製造ノウハウは非常に貴重で、玉野に工場を作って正解だったと感じます。
私自身、前職は日産自動車でリーフを始めとした様々なEVやHEVのバッテリー開発を中心に経験してきました。近年はEVの一般化も進み、社内でもそれを実感していました。元々転職するつもりはありませんでしたが、パワーエックスを知った時、「変わった会社だな。」というのが第一印象でした。またそれと同時に少し興味が沸きました。これまでの自分自身の開発経験から鑑みると、電池を大量に船に乗せ、それを風車に繋げて…という発想がぶっ飛んでいる!と思いました。そのため面接では、初期投資をどの様に回収するのか、エンジニアリングの課題は、等々質問をぶつけ、それを重ねていくうちにあれよあれよとパワーエックスに魅了されてしまいました。それと同時に、電気運搬船の発想も原理原則に従って計画されていると感じました。つまり、海洋国家である日本は洋上風力をやるべき。遠洋は風が強いが、遠くてケーブルが敷設できない。それなら船で運ぼう。というストーリーが、とても魅力的かつ現実味もあって、説得力があると感じました。
また電気運搬船以外にも、定置用蓄電池や充電器も展開しており、ビジネスのロードマップもしっかりしていると感じました。その結果、私の残りの社会人人生を掛けてみようと決意し、Joinしました。
私の世代は、就職当時は氷河期、役職者になった時はリーマンショック、やりたいことができなかった時代でした。そのためか、何かやってみたいという欲求に飢えています。これまで船には関わったことがありませんでしたが、専門家の皆さまと共に、日々チャレンジしています。
私が入社した2022年当時の計画より、全ての予定が前倒しで進んでいます。現実がどんどん先行しており、こんなスピードで進まないであろうと思う事が現実になっていくという貴重な経験をさせてもらっています。
――PowerX社が工場を立ち上げるというのは、玉野地域にとってもグッドタイミングだったのでは?
池添
当社には「もうダメかもしれない。」と思った時に降ってくるご縁や運があると感じています。その点で、我々の製品を一緒に創り上げてくださる玉野の会社や地元の方々には、本当に助けられています。また、日本の造船業は厳しい時代ではありますが、そのノウハウを存分に活かしていただける関係性にも感謝しています。
――生産管掌との事で、工場運営や玉野地域への思いをお聞かせください。
池添
現在40名程度の所帯で工場を運営しています。その半分以上は玉野と玉野近郊在住の方々ですので、地元とも協力し、安心して働ける工場にしていきたいと思っています。同じ玉野に位置する三井E&S様とも良好な関係を築くことができていると思いますので、地域全体で共に盛り上がっていきたいと思っています。
蓄電池市場は、現在中国にとてつもなく大きなマーケットとサプライチェーンがあります。一方日本の部品コストはまだまだ高く、海外からの調達に頼らざるを得ない状況が現実です。今後は我々がこの玉野の地で皆さまとともに成長し、これらの部品も日本で調達できることを目指しています。正にこれからが正念場です。我々の製品は、船だけではなく、EV用のバッテリーにも共通点が多いので、岡山県内の自動車産業のサプライヤー等にも今後是非参入していただき、どんどん市場を発展させることができればと夢見ています。
――池添さんの休日の過ごし方をお聞かせ下さい。
池添
パワーエックスに入社してから始めたのはライブ鑑賞です。以前はオーケストラでトロンボーンを演奏していましたが、最近では休日や会社帰りに、若い人に紛れてよくライブハウスへ行きます。休みの日も仕事をすることが多いですが(笑)、社内での仕事のスピードが非常に早いので、それをキャッチアップするのに必死です。
――自己紹介とご担当の電力事業について教えてください。
飛澤
私は現在40歳で伊藤と同い年、入社は2022年4月です。入社当初は経営企画部に所属し、最初は会社全体を見る業務を行いながら、新規事業や各事業を掛け合わせて、伊藤と共にアイデアから構想を描いていました。入社を決める時点で、パワーエックスは必ず電力事業に取り組むと見込んでいましたので、新規事業の一環として、伊藤と共に電力事業の骨子を水面下でブラッシュアップしていました。「部長をやれ」と言われてから2023年7月には電力事業部が新設され、現在に至ります。
飛澤
電力事業はどの事業にも関連しており、EVの充電ステーション、船舶、各事業の縦と横を繋ぐものだと考えています。私はパワーエックスへ来る前に2社経験しており、1社目は船関係のグループ会社、2社目にENEOS(当時はJX日鉱日石エネルギー)で勤務していました。私は風力出身の佐藤さんとはある意味逆に位置する「炭素屋」出身です。船関係の会社に入社したはずが、石炭火力の制御システムを作って営業し、試運転まで全て担当していました。石炭火力は面白い仕事でしたが、ビジネスを作る仕事がしたく、商社かエネルギー関係の会社への転職を希望し、ENEOSへ入社しました。そこでは再び「炭素屋」として、ガス火力の発電に携わっていました。新しい発電所を作ったり、米国のガス火力や投資先の事業管理等を経験しました。売電事業にも携わりましたが、国内制度の目まぐるしい変化や、燃料価格をはじめとした世界のトレンドの変化、さらに長期契約も減少する状況で、火力は将来的に厳しくなると考え、太陽光などの再エネへシフトしました。
しかし、日本の電力グリッドの仕組みや制度はあまりにも難しく、このままでは再エネを増やせないと感じました。世界の潮流が再エネへ向かう中、再エネを事業として成立させるにはどうすべきかを考えた時、電源を作る際の制度を理解する必要性を改めて感じました。
新燃料の候補として水素もありますが、手前10年の話ではないのではと思いました(水素の方々には怒られますが)。この10年のミッシングピースの間にやるべき事は何か、パワーエックスに来る2年ほど前から考えていましたが、外へ出てチャレンジしない限り、自分も業界も将来が見込めない状況だと感じました。「あの船の写真を見て。」と妻が電気運搬船の写真を見せてくれた時、「ああ凄い事を考える人がいるなあ。」と思っただけでしたが、その後造船会社との提携のニュースを目にし、これは本気だと思いました。パワーエックスのYouTube動画を観て、蓄電池を作りながら販売し、電力事業を展開すれば、電気運搬船は確実にできると感じました。「船をやる為に手前ではこれをやる方程式」という言葉が心にも刺ささり、これなら日本の電力グリッドの課題を解決できると思いました。
佐藤
飛澤の面接の際、私は予定が合わず出られなかったのですが、キャリアを聞いたら船関係の会社とエネルギー関係のキャリアがあると言う事で、これは採用決定だろうと思っていました。
――最後の決め手は奥様。
飛澤
現在の部署ができてから採用活動も行ってきましたが、パワーエックス=ベンチャーへ移るのは結構怖いことなのだなと感じます。私自身もそうでした。電力業界の経験者をお呼びしようとしても、ハードルを感じられるかもしれません。私の場合、実は最後に背中を押してくれたのは妻でした。「今行かないでどうするんだ!」と言われ、「炭素屋」を脱しました(笑)。
「これから電気運搬船の時代です!」といきなり言っても皆さんが腰を抜かしてしまうと思いますので、経済合理性が成立する範囲で世界の潮流に則って進めるよう、日本全体も変化することを願っています。その上で、今availableなことが再エネや蓄電池だと思います。未知なる技術革新も有るとは思いますが、それに期待して何もしなければCOP28等でも出遅れ、日本の国力を損なうことにも繋がってしまいますので、現実的に今できる事をやるべきだと考えています。私たちが生活している陸上の電化、再エネ化、蓄電池導入に向けて、我々が一所懸命作った電池をお届けしますので、まずはそこからカーボンニュートラルへ向けてご一緒しませんか?その後必ず海と陸が繋がり、船で電気を運ぶ時代に繋がっていきます。
――休日の過ごし方や趣味として続けていることは?
飛澤
若い頃からの趣味は、筋トレとエレキギターを弾くことです。エレキギターは、ライブで披露するのではなく、皆さんが普段ご自宅で音楽を聴かれるのと一緒で、聴きながらギターを弾いている、という感じです。今は土日に仕事の日もありますが、ダラダラやらずに空き時間を作り、趣味にも取り組めている状況です。「ダメだ、今日は仕事やめ!」と言って、おもむろにギターを取り出し、ビールを持って来て弾くこともあります。このほかに我が家では、小学4年生と1年生の子供、妻、私の家族4人で麻雀をやります。賭けるとしても皿洗いですが(笑)、長女がめちゃくちゃ強いです。
【プロフィール】
伊藤 正裕(いとう まさひろ)
1983年 生まれ 東京出身
2000年 株式会社ヤッパ 創業
2014年 M&Aにより株式会社ZOZO 入社、株式会社ZOZOテクノロジーズ 代表取締役CEO 就任
2019年 株式会社ZOZO 取締役兼COO 就任
「ZOZOSUIT」、「ZOZOMAT」、「ZOZOGLASS」など数多くの新規プロダクトの開発を担当し、ZOZOグループのイノベーションとテクノロジーを牽引
2021年3月 株式会社パワーエックス 設立
佐藤 直紀(さとう なおき)
1971年 生まれ 福岡県古賀市出身
株式会社安川電機 経営企画室において中長期経営計画策定やM&A等に従事、主に環境エネルギー事業の立ち上げ、事業戦略策定を担当
2021年12月 株式会社パワーエックスへ参画
2022年1月 船舶・風力発電事業部長に就任
池添 通則(いけぞえ みちのり)
1971年 生まれ 兵庫県西脇市出身
1997年 株式会社三洋電機 入社、セル、モジュール機構設計等を担当
2002年 日産自動車株式会社 入社、HEV/EV用電池のパック設計を担当、米国駐在、電池開発の上流から下流まで経験
その後、EVの中長期技術戦略、EV車両プロジェクト全体統括などを経て、HEV/EV用電池、充電器、DCDCコンバーターの開発部門責任者やバッテリー戦略責任者として電動車開発をリード
2022年4月 株式会社パワーエックスへ参画
2023年1月 執行役 製品開発・生産領域管掌 就任
飛澤 航平(とびさわ こうへい)
1983年 生まれ 岩手県盛岡市出身
郵船商事株式会社を経て、2014年 JXエネルギー(現:ENEOS)株式会社 入社、電力事業に従事
2022年4月 株式会社パワーエックスへ参画
2023年7月 電力事業部長 就任
■パワーエックス ウェブサイト
URL:
https://power-x.jp/
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