dbg
【マリンネット探訪第1回】
今年で社長就任20周年 「井本品質、井本プライド」で
内航コンテナ船の次世代へ先手を打つ
< 第501回>2021年06月30日掲載 
 井本商運株式会社
代表取締役社長 井本 隆之 氏

*部分をクリックしますと前回のインタビューがご覧いただけます

――*2009年にも「会員探訪」にご登場いただいた井本商運の井本社長です。前回のインタビューから10年以上が経ちますが、この間にどのような変化がありましたでしょうか。
タイトル2001年に私が社長に就任して大きく変わったのが、先代社長時代の小型コンテナ船路線(100TEU、499総トン)から大型化(200TEU、749総トン)へ舵取りをしたことでした。前回のインタビュー後、2013年には国土交通省の国際コンテナ戦略港湾政策の下、初めて400TEU型(2,446総トン)を建造し、現在に至るまで400TEU型3隻、600TEU型2隻を運航してさらなる大型化を推し進めています。2022年6月には、600TEU型(7,390総トン)で3隻目となる、球状船首に垂直バウを組み合わせた省エネ船が竣工する予定です。
――外航コンテナ船では、リーマン・ショック前後からメガコンテナ船による大量輸送化が進んでいます。運航船隊の大型化をされている井本商運さんですが、国内のコンテナ輸送量についてはいかがでしょうか。
 当社のコンテナ輸送のメインである、外国貿易貨物の二次輸送である内航フィーダーサービスの輸送量も総じて増え続けています。外航船が大型化することで日本国内の寄港地が減っていった結果、国内のフィーダー航路の輸送需要が新たに生まれることになったのです。ところが、近年はアジアの近海フィーダー船として1,000~4,000TEU型が投入されており、我々内航フィーダーも競争力をつけるために必然的に大型化を進めている格好です。大型化して空いたスペースには、国内トラック輸送からのモーダルシフト貨物を集荷して積み合わせ、消席率をキープしています。
――2021年には、商船三井を中心とした企業コンソーシアムによる自律運航船の実証実験が控えていますが、自社運航船の参加に向けた思いについてお聞かせください。
 実験には3つの狙いがあります。1つ目には、内航船員の労働環境改善のために自動航行を役立てたいというものです。内航船員は通常、4時間ずつ3交代で操船していますが、このうちの1ワッチの4時間の間、自動航行が実現できれば船員の労働時間が軽減することになります。目下、我々が目指しているのはこの部分です。2つ目は、船員不足に伴う船員の技量低下を自動航行技術でサポートしてもらいたいというものです。離着岸作業は全員総出となる負担の多い作業であり、仮に自動航行が実現しても、離着岸作業が自動化されない限り、船員の人数を減らせることになりません。今回の実験では、離着岸時に本船上からドローンでヒービングラインを岸壁側に投下する係船支援の実証を行う予定です。内航フィーダー船は外航船社の各ターミナルを回るため、1日に2、3回離着岸を繰り返しますが、離着岸作業は船長の操船の腕に頼る部分が多いのです。離着岸中の事故が最も多いこともあり、一層の安全性確保のためにこうした自動化でバックアップできないか検証したいと考えています。最後の3つ目が、内航船員の不足問題の解消に向け、船舶の自律航行が可能になる5年、10年先に備えておきたいというものです。
――将来的に、自動航行技術で船員不足をカバーしていくための自律航行船への取り組みとは別に、自社で船員を育成されているそうですが、気を遣っていらっしゃる点などをお聞かせください。
 2017年から自社で新卒・中途採用を行っており、現在、自社船12隻のうち4隻に自社船員を配乗して運航しています。船員を育成するうえで重視していることは船長と機関長の教育、これに尽きます。技術面にとどまらず、責任感ある指揮官を育成するために船長、機関長を下船時に本社に呼ぶなど、「人間教育」の強化を図っています。また自社船員化を始めて4年経ち、今では少し古いのかもしれませんが、新卒の船員を「井本品質、井本プライド」で一から教育する重要性を実感しています。ただ陸上での教育には限界があり、本船上で教育するのは船長、機関長しかおらず、だからこそ船長、機関長を我々が教育する必要があると考えています。優秀な船長、機関長の下ではじめて、優秀な船員が育つのです。
――船内では、常にチームで動いていますものね。
 これまでの経験から、連帯意識が高く、コミュニケーションのとれた雰囲気の良い船では事故が起きないと実感しており、船内のチーム力、陸上とのコミュニケーションを特に重視しています。 また若い船員も快適に過ごせるよう、船内Wi-Fiの整備やBS放送の視聴といった居住区環境の向上にも力を入れています。2022年に竣工する新造船では船員室にシャワーやトイレを備えるほか、新卒で女性船員を採用したこともあり女性フロアを設ける予定です。今後も優秀な女性船員はどんどん採用したいと考えています。
タイトル――活躍する先輩の姿に憧れて、後に続きたいと船員を目指す若手が一層、増えると良いですね。
――2009年ご登場の際、関心事として環境問題を挙げていらっしゃいましたが、昨今の海運におけるゼロエミッションを巡る動きについて、ご見解をお聞かせください。
 水素やアンモニア燃料が検討されている外航船と比べると内航海運は遅れ気味で、このままではいつか荷主に積んでもらえない時代が来てしまうと危惧しています。我々は2014年から内航コンテナ船で初となるディーゼル発電による電気推進船”ふたば”(200TEU型、749総トン)を運航していますが、社内で新たに「次世代コンテナ船プロジェクト」を立ち上げ、既存船の3年後のリプレースに伴い、小型船である499総トンのバッテリー搭載型電気推進船の開発に向けて関係各社と取り組んでいるところです。当初はLNG燃料船も挙がりましたが、目指すところはゼロエミッションだ、という方向でまとまりました。
――井本商運さんに積めばゼロエミッションだ、と荷主さんも安心となりますね。
 メガコンテナ船の完全な電気推進化は難しくても、我々のような小型船では進化のスピードは速いと考えています。また我々は水素やアンモニアのタンクコンテナ輸送といった、コンテナをキーワードにした次世代燃料輸送関連の取り組みについても検討していきたいと考えています。
――印象に残っているお仕事についてお聞かせください。
 東日本大震災後、我々は海運会社で唯一、震災がれきを輸送しました。当初、がれきをコンテナで輸送するという発想がなかったのですが、実際に石巻に赴き、一体、処理に何十年かかるのかと感じるほどに途方もない規模のがれきの山を前にして、何とか船で運ばなければと取り組みました。鉄板のふたをしめると密閉されて臭いが漏れないハードトップ型コンテナを処理業者さんと共同で開発したものの、放射能の問題もあり、最初に仙台港から積み出すことができたのは翌年、2012年のことでした。この仕事がこれまでで一番印象に残っています。この専用コンテナはその後、2016年の熊本地震や2018年の西日本豪雨といった各地の災害廃棄物輸送でも使われることになり、こうした実績を重ね、現在では処理業者さんと連携し「災害がれきの海上輸送は井本商運へ」とお任せいただくようになっています。
――最近感動したことについてお聞かせください。
 1か月前に腸閉塞で緊急入院し、一時は生きるか死ぬかの瀬戸際をさまよいました。術後、コロナ禍で医師の先生が土日返上で自宅療養患者を往診したり、看護師の方々も昼夜を問わずコロナ患者の対応を行ったりしている話を直接聞き、入院して初めて、「戦時体制」下の医療関係者の献身的な働きぶりを目の当たりにしました。こうした方々が24時間、文字通り命がけで働いているのには、感動というか、ただただ感謝の一言に尽きます。
――夢や目標は何でしょうか。
 夢は、国内での海上コンテナ輸送を一層、普及させることです。目標は、私が社長在任中に脱炭素型コンテナ船の建造を実現させることです。
――思い出に残っている「一皿」についてお聞かせください。
タイトル
 母の実家は和歌山の漁師でした。小さい頃から食べていたものが2つあり、1つ目は和歌山の郷土料理「なれずし」です。鯖を寿司飯に乗せてアセという葉で巻いて数日間発酵させたもので、独特の風味があり何個でも食べられます。2つ目は、祖母や母が漬けた梅干しです。最近売られているものとは違い、梅としそだけで漬けた、涙が出るくらいに酸っぱい昔ながらのものです。自分は和歌山の梅干しで育ちました、とご紹介したくて、できるだけその当時の味に近いものを探して、当社の株主総会でお土産に配っています。
――思い出に残る「絶景」についてお聞かせください。
タイトル
 阪神大震災が起こった1995年、その年のクリスマスに神戸市が行ったイルミネーション「ルミナリエ」は忘れられない景色です。震災発生時は自宅が全焼して焼け出され、街が停電で真っ暗な中、1カ月を避難所で過ごしました。ルミナリエが開催された12月当時も、電気は復旧しても街は復興にはほど遠い状態だったのです。そんな時に家内とルミナリエを見に行き、バシバシバシ、と順に明かりが点いていったのを目にした時、思わず「わーっ」と声が出ました。
 
【プロフィール】
(いもと たかゆき)
1960年生まれ 兵庫県出身
1981年 神戸電子専門学校卒業、システム系会社に入社
1982年 井本商運入社
1990年 取締役
1993年 常務取締役
1995年 代表取締役専務
2001年より現職
 
■井本商運株式会社(https://www.imotoline.co.jp/

記事一覧に戻る