株式会社カシワテック
代表取締役社長
山下 義郎 氏
※部分をクリックしますと前回のインタビューがご覧いただけます ――――株式会社カシワテックの山下 義郎社長です。
※2006年4月にも、インタビューコーナー「会員探訪(現 マリンネット探訪)」にご登場いただきました。前回のインタビューから15年以上経っておりますが、その間の変化と併せて、カシワテックの概要・特色について、ご紹介をお願いいたします。
2006年と比較して、足元の造船業界は激変しています。当時は、主に消火装置や防爆装置の製造がメインでしたが、タンカー向けの製品だけで将来的に生き残ることは厳しいと判断し、M&Aを活用した事業の多角化を図ってきました。2013年には、鉄艤品や浸水警報装置の販売を手掛ける株式会社シーメイト(本社:広島県広島市)、その後2015年に、精密深孔加工メーカーの株式会社ハイタック(本社:静岡県沼津市)、2017年に切削部品加工メーカーの株式会社昭栄精機(本社:山梨県中巨摩郡)とのM&Aを実現しました。直近では、2021年6月に船舶IT関連のシステム開発を手掛ける株式会社東北電技工業(本社:宮城県塩釜市)も加わり、カシワグループ全体で5社まで拡大しています。特にシーメイトは、アンカーやチェーンなどの船舶艤装機器類をいち早く中国から輸入・販売する体制を構築していたという点で、舶用業界でも先駆け的な存在です。また、同社とのM&Aによって、バルクも営業上重要な船種として、当社のポートフォリオに組み入れることができましたし、同社がベトナムのハイフォンに保有していた工場は、現在カシワベトナムとして、消火装置の一部であるパネルの生産を行っています。――――グループ会社は、船舶関連企業や工作機械部品メーカーなど、様々な業種で構成されています。他のグループ会社との連携やシナジーについて、ご紹介いただけますか。
カシワグループは現在、船用関連事業と精密加工事業の大きく2つの事業で構成されています。船用事業に関しては、カシワテック、シーメイト、東北電技工業の3社です。長年の経験に裏付けされたカシワテックの技術力と海事産業との繋がり、他社に先駆けて価格競争力のある中国製品を日本造船所に提供するなど、新しい価値をいち早く市場に提供してきたシーメイトの先見の明、そして研究船や練習船等向けに難易度の高いシステム開発を手掛けてきた東北電技工業、それぞれの特色と強みを活かした連携を模索しています。
足元では、IT技術によって内航海運業界の課題解決に貢献すべく、東北電技工業が中心となって、カシワテック、シーメイトの協力の下、内航貨物船向けの運航管理(勤怠管理)システムの開発を進めています。
また、精密加工事業を担うハイタック、昭栄精機の2社に関しては、両者の強みを活かした加工技術によって、様々な業界のものづくりに貢献すべく、サービス提供に努めています。
グループ企業各社は、技術やサービスの連携だけでなく、各社が持つ多様な強みを相互に活用し、この変化の時代において、海事産業は元より、世の中に対して新たな価値提供ができるONE TEAMに進化していきたいと考えています。――――主力製品である泡消火装置について、製品の特徴や強みについて、また、昨今の脱炭素化の流れが加速する状況下において、製品開発における新たな取組みについて、ご紹介いただけますか。
当社が手掛ける高膨張泡消火装置は、消化液の中に含まれる各種安定剤等の働きによって、強い耐火性があり、ガソリン、ナフサ、重油、軽質油などの油火災、木材や布の火災など、幅広い火災に対して効果的に消化を行うことができます。また発生した泡は、人体に対しても安全です。古くから用いられてきたCO2(二酸化炭素)消火装置は、乗組員への二次被害の問題があり、ハロン消火装置も、オゾン層破壊による地球温暖化問題があり、現在は発売中止となっています。当社の泡消火装置は、これらの問題を解決することができ、安全性、環境負荷低減の観点において、お客様から高い評価をいただいています。なお、機関室区域、貨物ポンプ室用固定式消化装置に関しては、現在約4,600隻の船舶への導入実績があります。
脱炭素化の流れが加速する状況下での新たな取り組みについては、2022年6月にアンモニア燃焼装置に関する特許を取得したことです。現在、この特許技術を用いたアンモニア燃料船向けのバーナーを、舶用ボイラーバーナーの開発を手掛ける株式会社サンフレムと共同開発しており、今後、当社のイナーティングガス発生装置に採用すべく、開発に取り組んでいる状況です。
業界内でも脱炭素化に向けた新燃料船の開発や、新燃料の輸送船の開発も進んでいますので、この動きに合わせた消火装置の搭載も必須であり、新装置の開発は喫緊の課題と考えています。――――2021年10月にMarindows(マリンドウズ)社への出資を発表されています。出資を決めた経緯や今後の展開についてお聞かせいただけますか。
カシワグループとして、デジタル領域を含めて海事産業に新たな形の価値提供を目指す中で、大きな変化を成長の機会と捉え、海事産業の課題解決をソフト面で推進するMarindows社の志とその力に期待し、出資を決定しました。カシワグループとしても、IT技術が海上の安全と環境の改善に貢献すると考えており、グループ会社である東北電技工業の持つシステム開発力をはじめ、カシワグループが持つ通信やデジタルの知見も活かすことができると考えています。――――これまでのご経歴についてご紹介をお願いします。
生まれは神戸で、当時川崎汽船に勤務していた父の仕事の都合で幼少期の3年間はニューヨークでしたが、それ以外は現在に至るまで東京で過ごしてきました。学生時代は、一貫教育校に進学し、中学・高校時代は野球部、大学生の頃はアイスホッケー部に所属していましたが、大学受験も無く運動に明け暮れる毎日でした(笑)。大学時代のアイスホッケー部の練習はとにかく厳しく、あれほどの辛い経験は、後にも先にもありません(苦笑)。――――前回のインタビューからも当時の厳しさが伝わってきます。
大学卒業後は、東洋信託銀行(現:三菱UFJ信託銀行)に入行し、13年間銀行員として、主に法人営業を担当していました。その後父親から後継者として打診があり、半年ほど悩んだ末、家業を継ぐことを決意しました。銀行員としてそのまま働き続けることも考えましたが、中小企業の経営にも興味があり、いずれは家業を継ぐこともあるだろうと漠然と想像していました。入社当時は2000年で、海運マーケットは大変厳しい状況でしたが、逆に良い勉強にもなりました。その後はマーケットが上昇基調に転じたことも手伝って、何事にも前向きに取り組むことができたと感じます。――――家業を継いで、ご苦労されたことは?
父との意見が合わず、経営方針や考え方の違いで衝突が絶えませんでした(笑)。一方で、会社を経営する上で大変勉強になり、感謝しています(念)。
――――人生の転機についてお聞かせください。
中学受験や家業を継いだこと、初めてのシーメイトとのM&Aなど、人生の転機と言えるものはいくつも挙げられますが、中でも初めてのM&Aは大きな決断でした。それまではカシワテック1社でしたが、見える景色も大きく変わりました。その後のカシワグループ構築に向けた第一歩にもなり、大きな転機だったと思います。――――「座右の銘」についてご紹介をお願いいたします。
「正直・親切・勤勉」です。小学校の校訓だったと記憶していますが、この言葉がずっと頭の中に残っていて、今でも大切にしている言葉です。
――――最近感動したできごと、または夢や目標について教えてください。
ワールドカップや大谷翔平選手の活躍など、特に最近はスポーツで感動することが多いですが、何といっても、母校の野球部が、2022年秋に神奈川県大会で準優勝し、関東大会ベスト4に入ったことです。さらに、2023年春の甲子園(記念選抜高等学校野球大会)への出場も決まり、OBとして大変嬉しいです!
夢や目標については、先ずは当社の社員1人ひとりが自己実現を図ることができる会社にしていきたい、ということです。――――思い出に残っている「一皿」についてお聞かせください。
神戸市内のステーキ店「レストランみやす」のステーキとドライマティーニが最高です。ドライマティーニで始まり、付け出しやサラダ、〆(しめ)にはカレーやバターライスもありますが、とにかく何もかもが美味しいです。
B級グルメも大好きですが、特に最近気に入っているのは、門前仲町にある鉄板焼き店「深川三久」です。お好み焼き、たこ焼き、もんじゃ焼き、肉の鉄板焼きなど、全て目の前で調理してもらえるのですが、日本で一番美味しい鉄板系の粉もの屋だと思います。――――お話を聞いているだけでお腹が空いてきます。

――――心に残る「絶景」について教えてください。
大学の卒業旅行で訪れたネパールで見た朝日です。友人と3人で1泊2日のトレッキングをすべく、ヒマラヤ山麓の街ポカラから出発しましたが、途中でガイドと離れてしまい、道に迷って雨の中で遭難しかけました。どうにか小さな村の中に宿を見つけて、命からがら泊まることができました。布団は無く、一枚板の上で一晩眠りましたが、翌朝見た朝日の絶景は今でも忘れられません。ちなみに、この業界に入ってからは、進水式で毎回感動しています。何度見ても、その迫力には圧倒されます。
【プロフィール】
山下 義郎(やました よしろう)
1965年生まれ 兵庫県神戸市出身
1988年 慶応大学法学部政治学科卒業、東洋信託銀行(現:三菱UFJ信託銀行)入行
2000年7月 東洋信託銀行退職
2002年8月より現職
■株式会社カシワテック(https://kashiwa-tech.co.jp/)